(23)
ボクは陸自の旗の立つテントを覗き込む。
「すみません、ナカムラと言います。こちらにK二曹はいらっしゃいますか?」
いきなり現れたスーツ男に皆驚いている。
「しばらく、お待ち下さい。」中の1人がテントを出ていった。
移動準備に追われて騒がしい。やがて、K二曹がテントに入ってきた。
「ナカムラさんですか?」
ボクは右手を出す。
「よろしくお願いします。」
Kさんが握手を返してきた。
「驚きました。ゲートをどうやって通ったんですか?」
「ゴンザレス氏が…。」と後をにごす。
「そうですか。」と納得してくれた。
「保護する子ども達の事をゴンザレス氏からどこまで聞いてるんですか?」
Kさんはボクを向こうへ連れていく。
「“心を覗ける子ども”という事ですか?」Kさんが言う。
「Oから聞きました。ちょっと信じられない話ですが、アイツが言うならソウなんでしょう。」
「Oさんと、親しいんですか?」ボクが聞く。
「同郷です。ああ、そうだ。アイツが“ナカムラっていう厄病神がソコに行くから”って笑ってました。アイツの笑い声を久しぶりに聞きました。」
「酷いなー。女性を紹介してやったのに。」とボク。
「アイツにですか?」とKさんが驚いてる。
「あなたの部隊はどこで待機するんですか?」
Kさんは地図を広げ指差す。
「ココがゴンザレス氏から指示された、地点です。」
「ココから徒歩で一時間程昇った地点に子ども達がいると聞きました。」
「かなり近いので危険ではありますが子ども達の事を思うとコレ以上は離したくないとの事でした。」
「私達も安全を考慮しなければなりませんから、留まっていられるのは3時間が限度です。」
夜中の1時から4時までか。
「今夜の作戦が少年兵の保護という事を隊の皆さんは知ってるんですか?」
「今朝、説明しました。夜からキャンプを出るという事に全員が不安を感じていましたから。」
「危険な仕事をお願いして、すみません。」
「何故、あなたが?国からの命令です。仕事ですから。」とKさんが笑う。
「…失礼ですが、ナカムラさんはこちらには何を?」
ボクを見てKさんが聞いてきた。
「ボクが子ども達を呼びます。ボクも彼等のナカマなんです。」
「同行させてください。」
Kさんが驚く。
「ナカマというと“ココロを覗ける”と?」
ボクはうなずきながら
「ボクらにも礼儀はあります。いつも覗いてるワケではありません。」
「ガードの固いヒトは簡単には覗けませんし…。」
「それよりも、ボクらのココロが繋がってる事が重要なんです。」
「現在ボクの友人が子ども達の側にいます。」
「先程、アナタの教えてくれた待機地点を教えました。」
「少人数のグループに分かれて気づかれないよう山を降り始めています。」
Kさんが言う。
「便利ですね。アナタの友人達に危険は?」
「大丈夫です。気にしないで。」(何しろ身体はないんだから。)
「…アナタのような人が増えると、Oは言っていました。
将来的に彼らに貸しを作る事は国益になるだろうと…。」
ボクは笑う。
「彼らなんて他人行儀な。Kさんお子さんは?」
「1人います。5歳です。」
ボクがKを見る。
「…まさか?ウチの子もそうだと。」
ボクはうなずく。
「10年前にある現象がありまして、地球上の人間のDNAに影響を及ぼしたようです。そして生まれた子ども達がココロを結びはじめています。今回の作戦もその動きから起こりました。感能力を持たない人たちと溝を作らない形でやっていく事を望んでます。彼らと作り上げる新しい世界を楽しみにしています。親ならわかるでしょ?」
Kさんは黙ってる。
「ゴンザレス氏から同行をお願いされた方を紹介します。」
Kさんから二人の男を紹介された。
「こちら、フリーのライターをされてるオキさんと助手のマチさんです。」
「よろしくお願いします。」ボクが握手を求めるとオキさんが応えた。
「こちらこそヨロシク。」助手のマチさんはカメラを構えたままピースして合図してきた。自分の声を拾わないよう声を出さない。
「ゴンザレス氏がネット配信するっていってましたが…。」
「ええ、マチの写した映像がそのままキンシャサにある事務所に送られてサイトでオンエアされます。」
ヘーッとボクがカメラを見る。思わず出来ないウインクをカメラにする。
マチさんが眉間にシワを寄せ。“やめろ”っていう風にひとさし指を振る。
「今回、ゴンザレス氏はかなりムチャをしてますね。日本の部隊が夜間からゲートの外に出るのをこのキャンプの指令が認めてるのも何かしらの承諾をさせてるからでしょうし、恐らく少年兵保護の作戦も知ってるでしょうね。」
「この作戦が成功しても、世論が支持してもゴンザレス氏は事務総長を辞めるつもりですね。」「そうでなきゃ、議会を無視したケジメがつかないでしょう?」とオキさんが言う。
ゴンサレス氏、総理大臣のゴトウ氏、そしてO。今回の事で職を辞して協力してくれる。申し訳ない気持ちと感謝でなにも言えなくなる。
K二曹が現れた
「皆さん、車に乗って下さい。出発します。」
ゲートから出て一時間程で車は止まった。
輸送車と指揮車と武装車のライトが消える。
“来た”“本当に来た”頭に小さな声がする。
ボクは車から降りる。声に向かって走り出す。
「ナカムラさん!勝手に動かないで!」Kさんの声が後ろで聞こえる。
オキさんとマチさんがボクを追いかけて来た。
「オキさん達まで!危ないですよ。」
護衛の為に自動小銃をもった隊員が追いかけてきた。
“ムゥ、いるのか?”
“オレは、最後のグループについて山を降りている。”
“残りの子ども達は山の麓にいるはずだ。”
“わかった。ススムくんは、どうした?”
“ひとり、聞き分けのナイ奴がいて、そいつの説得をしてる。”
“大人の兵隊はいないのか?”
“それが、不思議な事にいないんだ。助かったけどな。”
ボクは子ども達に呼び掛ける。
“おいで、迎えにきたよ。”
“キミたちの仲間だ。”
暗がりの中から動く人影。銃を構える隊員。
「子どもたちです!銃を降ろして!」
ボクは両手を広げて迎える。子ども達が走って出てきた。
ゴリゴリの痩せた体の子ども達を抱きしめる。
“待たせたね、もう大丈夫だよ”
こんなにいたなんて。輸送車に乗り切れない。
「山には大人の兵はいないようです。もう一度往復してもらえませんか?」
ボクがKさんに言う。
「そうするしかナイですね。輸送車をキャンプへ向かわせましょう。」
「ちょっと、待て。俺たちも乗せてくれ。」
オキさんとマチさんだ。
「もし、キャンプの指令があの子たちを拒否したら、コイツがモノ言うゼ。」
マチさんのカメラを指差す。そうか、いまライブ中なんだ。
「オキさん、マチさん、お願いします。」
彼らは親指立てて、輸送車に乗り込んだ。
「ナカムラさん、さっきの画はよかったヨ。」とオキさんが輸送車の中から言ってきた。
ボクはおどけて、出来ないウインクで返す。マチさんが指で“ダメ、ダメ”をする。
輸送車を見送ってしばらくすると、ムゥ達が降りてきた。
「ムゥ、ご苦労様。」ムゥと最後のグループを迎えた。
「輸送車は?」ムゥが聞く。
「入りそうにないので往復してもらおうと思って」
「そうか。」とムゥ。
「ボクはススムくんの様子を見てくるよ。」
「わかった。」
疲れているようだ。休ませてやろう。
「Kさん、もう一人残ってるようなのでボク見てきます。」
「ボクの様子が知りたければ、彼に聞いて下さい。ボクの友人です。」
ムゥを指差す。ボクらに気づいてムゥが小さく手をふる。
「友人って彼ですか?」Kさんが子どものムゥに驚く。
“ススムくん、どう?説得できた。”
“彼は以前、逃げ出して連れ戻されて酷い目にあったんだ。それで…”
ススムくんには、まだ身体を作る事を教えてなかった。
彼らに呼びかける事は出来ても、触れることはできない。
ススムくんの歯がゆい思いが伝わる。
小屋の中で目だけ光らせてナイフを持つ少年。
“どうせ、また連れ戻されるんだ。そして…”
“だから、来るな!”
少年はナイフをかまえる
“国連の施設でキミたちは暮らすんだ。連れ戻される事はない。”
“おいで、遅くなったけど迎えにきたよ。キミのナカマだ。”
“わかるだろう?”
ボクはゆっくりと近付く。
ナイフを構える彼の手をどけて抱き締める。
“大丈夫。皆が待ってる。”
“ボクらは皆、繋がってる。新しい世界を作ろう。”
少年はナイフを落としボクにしがみついた。
“そうだ、いつも一緒だよ。”
その時、銃声が…。
ボクの背を熱いものが貫いていった。
ボクにしがみついていた少年の手が離れ、彼はズルズルとボクの足元に崩れる。
少年の背に廻したボクの手に血が…。
彼の血が…。
心の底にたまった黒いモノがあふれ還りノドまでこみ上げてくる。
それはノドを通り鼻と目を押してくる。やがて涙となり視界をおおう。
振り返ると銃をもった男が居た。ボクに銃口を向けて。
“何故だ!”
“何の意味があるんだ!”
“彼が何をした?”
“失せろ!”
ボクの周りで光の玉がバチバチと発光する。
突然、男が倒れる。
ススムくんが動きを止めたのか?
かまわない、お前なんか消えてしまえ!ヤツに落雷を!
突然、顔を叩かれる。
落雷は的をはずれ、爆発音と共に男の側に落ちて地面をえぐった。
「何、やってんだ!」
「ヤツは動けないダロ!」
「オレたちの前で人殺しなんかするな!」
ムゥだ。ススムくんの泣き声がする。
「その子は生きてる。出血がひどい。早く医者にみせないと…。」
「他の子の保護は完了した。その子を早く部隊へ!」
ボクはムゥに指図されるまま、彼を抱え、チカラを使い山を駆け下りていった。
麓には指揮車と武装車が待っていた。
ボクは少年を指揮車に乗せた。
ボクの後をムゥがあの男を背におぶって降りてきた。
「なんで、こんなヤツまで!」ボクはムゥを怒鳴った。
「よく見ろ!」ムゥが怒鳴り返してきた。
よく見ればまだ若い。リネぐらいだ。
「コイツはあの子を狙ったんじゃナイ。あの子を助けようとお前を撃ったんだ。」
なんて事だ。ボクが呆然としてると、Kさんが言った。
「早く乗って下さい。キャンプに帰ります。」
今回はちょっと固めかな。