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(22)

夜中、目が覚める。Aちゃんが隣で寝ている。

寝顔を見ていると触れたくなり、手を伸ばす。

ボクの手がない。

彼女の頬を感じるのにボクの手はない。

思わず声が出そうになり、見えない手で口をふさぐ。

寝室をあわてて出る。

落ち着け、大丈夫。自分の身体をイメージしろ。

恐る、恐る、手を見る。あった。

ボクはしゃがみ込み自分の身体を抱きしめる。

ダダ!

“どうした?”

龍はまだか?

“…まだだ。”

身体が消えかけてる。

“すぐに、戻って来い”

いやだ!

“お前、消えちまうゾ!”

いやだ!帰らない!

“ナカムラ!”

ダダと話すボクの声が聞こえたのか、Aちゃんが起きてきた。

「どうしたの?」

ダメだ、Aちゃんに気づかれては…。

ボクは立ち上がり「何でもないよ」と笑いかける。

でも、身体の震えは止まらない。

彼女の横を通り過ぎ寝室へ戻る。

後からベッドに入ってきたAちゃんを抱き寄せる。

彼女の胸に耳を当て、心臓の音を聞く。

微かにフルールの香り。

彼女がボクの髪をなでながら言う。

「震えてるわよ。」

「何でもない。」

しばらく、そうしていると眠くなってきた。

ダダが鎮静剤でも入れたのだろうか?



朝、ボクより早く起きてAちゃんがコーヒーを沸かしている。

起きだして来たボクを見て。

「おはよう、今朝の具合はどう?大丈夫?」と聞いてきた。

昨夜の事を心配してるんだ。

「大丈夫、恐い夢を見てね。」と笑う。

「子どもみたいネ。」とAちゃんが笑う。


キミはいつでも笑っていて。お願いだから。


__________________________


センターへの通勤途中、ゴンから連絡が入る。

“早速、日本の部隊から調査隊派遣の許可依頼の文書が来ました。”

“日数は1週間、ミケノ山に近い他国のキャンプに駐留しての調査との事です。”

“Oさんから、調査隊のK二曹はこの調査の本当の目的を知っている。作戦上の指示があれば彼と連絡をとるようにと言っていました。K二曹からの報告では駐留中にミケノ山の麓に部隊を一時待機させ子ども達を保護するとの事です。”

“保護されてあと、子ども達は?”ボクが聞く?

“国連の管理下にある施設に送られます。”

“また、連れ戻されては意味がありませんので。”

“それと知り合いのカメラマンとルポライターを彼等の部隊に同行させる事にしました。”

“作戦開始は、日本時間では2日後の夕方6時。向こうでは夜中1時を予定しています。今ネットで広告を出しています。“サプライズ映像がある”とカウントダウン付の時計とね。子ども達を保護する映像が流れれば、国際法によって犯罪とされる少年兵の存在が明らかになります。

国連にとっての大義名分ができます。後は世論の勢いに乗って各国への協力依頼をしたいと考えています。”

“その日、ボクもそこに行きます。K二曹にそう、伝えて下さい。”

“どうやって、向こうまで行くんですか?”と、ゴン。

“心配しないで。取りあえず伝えて下さい。”

“そうだ、あとでススムくんの所にK二曹の顔写真送っておいてください。”


__________________________


ボクは昨夜の間にたまったメールをチェックしていた。

「おはよう。」イシカワさんが出勤してきた。

「おはようございます。」

ボクはモニターから目を上げイシカワさんを見る。

ムゥ!なんで、イシカワさんと一緒なんだ?


「今朝、ダダさんからの伝言をムゥくんから聞いたよ。」

「ナカムラ、すぐに戻れ。」

ダダ、余計なことを!

「いやです。」

「お前、消えてしまうというじゃないか。」イシカワさんが言う。

「“消える”って事は“死ぬ”って事だってダダさんは言っていたゾ!」

「10年前とは違うって!」

ムゥが睨んでる。“バカヤロウ”って睨んでる。

「ムゥ、お前は帰れ。ボクがどんなに情けない大人か見る事になるぞ。」

「オレは父ちゃんの言葉をイシカワさんに伝えなきゃならないんだ。」

勝手にしろ!

「イシカワさん、ボクは戻ったら2度とココに戻れないんです。」

「Aちゃんと離れて生きて何が楽しいんですか?」

「それなら、Aちゃんの側で消えたい。」

イシカワさんが言う。

「死んじまったら、終わりなんだ。」

「お前、10年前もココに戻れないと思っていたンダロ?」

「でも、今はどうだ?お前、Aくんと暮らしてるじゃないか。」

「それこそ、生きてりゃコソだ。違うか?」

“ナカムラ、聞いてくれ。”

ダダだ。

“お前のチカラが弱くなっているのは知ってた。”

“そりゃ、そうだ。通常は1年空ける所を半年もしないで

地球へ行ってしまったんだから”

“だから、ココに戻って休養すれば戻れるはずだ。”

“もちろん確証はないし、消えたその時間以降になるとは思うが…。”

ボクがダダに聞く

「半年で10年経ってた。1年休んだら20年経ってしまうのか?それとも…。」

「本当に彼女に会えるのか?」

「ボクが消えた後、彼女がどんな想いでいたか知らないダロ!」

ダダが黙り込む。

Aちゃんが悲しんだのはダダのせいじゃないのに。

ボクは最低だ。

「ごめん、ダダ…。」

ムゥがイシカワさんにダダの言葉を伝えてる。

イシカワさんが応接ソファーのスツールをひとつ持って

ボクに近づいて来た。

説教するつもりだ。いつもそうだ。それでもボクは聞かない。

ボクの側にスツールを置いて座り込むとため息をつき、話しだした。

「お前が消えた後、A君が毎晩泣いていたのはオレもTも廻りもみんな知ってたよ。」

「朝から、目を腫らしてるんだもの。しばらくは受付から外されてたんだ。」

「皆の前では気にしてませんって顔して笑って…。痛々しかったよ。」

「ウチのに彼女を慰めてくれって言ったら、“そんなのTのヤル事でしょ”と“しばらくは、放っておきなさい”って言われた。」

「それでも1ヶ月もするといつもの彼女に戻ってた。」

「きっと、Tと寄りを戻したんだと思っていたら、彼女はTのEU研修に同行しないと聞いた。Tに“もっと押せ!”って言っても笑って首を振るだけだし。」

「気になって、昼に社員食堂で聞いたんだ。

“あのバカはきっと戻って来ない。キミはそれでイイのか?”

“Tと一緒になった方がイイ”と。」

「そしたら、彼女が言うんだ。」

“ナカムラさん以上に好きな人はいないのにその代わりだなんて、Tさんに失礼です。”

“ナカムラさんの事、待ってなんかいません。…でも、どっかに居るなら会えるかもしれませんよね?それだけでイイって思えるようになりました。”

「…って笑うんだ。強いダロ?」

聞いていて鼻水が出てくる。向こうむいてグスグスと鼻をすすっているとムゥがティッシュを持ってきた。“みっともねーなー”って顔で。

イシカワさんがボクの肩を叩きながら

「だから、お前が生きてる事が肝心なんだ。」

「それとも、50歳、60歳の彼女じゃ不満か?」

(かなり、残念かも…。)

イシカワさんも自分で言っておいて、ウーンと考えてる。

「…とにかく、そういう事だから帰れ!」と笑った。

最後の詰めが甘いっていうか、荒いっていうか…。

「判りました。アフリカでの仕事が終わったら帰ります。」

そうだった、という顔でイシカワさんがボクを見る。

「作戦開始は明後日の夕方6時です。その日、ススムくんに会いにお宅に伺います。」

「ススムに伝えておくよ。」


「じゃあ、オレ帰るから。」ぶっきらぼうにムゥが言った。

「ゴメン、ムゥ。みっともない所見せて…。」ボクがムゥに言う。

「フン」とそっぽを向いた。

可愛げの無いヤツ!

ボクもそっけなく、仕事に戻った。


ドアの向こうでイシカワさんがムゥを手招きしてるのに気付かなかった。


__________________________



「ありがとう、ムゥくん」

「べつに…」お礼を言われるようなコトじゃない。

「ダダさんに見えてるのかな?」イシカワさんが聞いてくる。

「ああ、きっと見てる。」とオレが応える。

「それじゃあ…。ダダさん、あのバカを説得するにはA君をからめて泣き落とすのが一番効くゾ。A君の名前が出ただけで目が潤んでるんだから。」

しょうがない奴という風にイシカワさんが言った。

「“よくわかった”って父ちゃんが言ってる。」

「“お互いバカには手をやくな”って。」

「“バカほど可愛い”とも言うがナ。」とイシカワさんが笑った。。

向こうで父ちゃんもいっしょになって笑ってる。


あのバカが父ちゃんやイシカワさんと同じ大人とは思えないネ。

オレはそう思う。


駄々っ子ナカムラでした。


「生きてりゃコソの…」はアニメ「宝島」を思い出します。

根強いファンが多くて「ベルセルク」に出てきた時は本当に驚いた。

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