(21)
日曜日の昼、Aちゃんの弁当を作っているとアラーム音が。
誰だ?モニターを見るとススムくん。珍しいね。
「いらっしゃい。ひとり?」
「うん…。」ススムくん元気がナイ。
ボクはダイニングテーブルの椅子をすすめる。
「弁当が出来たら、Aちゃんに届けるけど、一緒に行く?」
「うん…。」
どうしたんだろ?
「ナカムラさん、あの子達が応えてくれた。」
「ララァお姉ちゃんの歌のおかげだね。」
そうか、ララァの歌を聞いてくれたんだ。
「どうしたの?嬉しそうじゃないネ。」
「大勢の仲間を皆で助ける事ができて、ララァお姉ちゃんにもナカムラさんにも感謝してるよ。でも…」
「まだ、応えてくれない子がいるの?」
「応えてくれるけど、ボクらを責めるんだ。何しに来たって」
「ジャングルの奥で兵隊の訓練を受けてるからジャマするなって。」
「でも、本当は怖いって泣いてるんだ。殺さなきゃ殺されるって泣いてるんだ」
「ネット通じて大人たちにも、どうしたら助けられるって呼び掛けてるけど、内部干渉だって、難しいってしか言わないんだ。」
「もう、十分やったって言うんだ。でも…。」
「諦められないんだね。」ボクが聞く。
ススムくんがうなずく。
「ボク自身は何も出来ないのに…、ワガママかな?」
「満足してないのに満足したフリするのはいけないヨ。」
「諦めていないのはキミだけ?」
「違う、ココロを読める子どもたちは皆、諦めてナイ。」
「じゃあ、“ひとり”じゃないね。」
「キミたちに知恵をくれる人が現れるかもしれない。呼びかけを続けて。」
ススムくんがうなずく。
「その子達の居る場所はわかる?」
「コンゴ東部の山だって言ってた。」
さて、ボクはOと交渉を急がなければ。
「そうだ、ナカムラさん、ゴンが“話したい”って。言ってた。」
「“会いに行く”からって。」
ゴン?日本に来るのか?どういう事だろう。
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ボクとススムくんはカウベルを鳴らして店内へ。
Aちゃんはお客さんの相手をしている。
ボクを見て、
「よかった。コチラのお客様、男性へのプレゼントですって。」とAちゃん。
「ナカムラさんなら、どっちがイイ?」
アロマを選んでるお客さん。
ボクはお弁当をススムくんにあずけて、応対する。
「男性の方はアロマをご指定なんですか?」
「いいえ、特に指定はナイです。」
「おつき合いは長いですか?」
「いいえ、初めて部屋に招かれたので、手土産にと思って。」
ボクなら“キミだけで十分”なんちゃって。
「でしたら、コチラのコーヒーをおすすめします。」
「アロマは香りの好みがありますから、ご一緒に選ばれたらイイですよ。」
「このコーヒーはボクも飲んでみました。味、香りともに保証します。」
「じゃあ、それをお願いします。」ボクはプレゼント用の包装袋にコーヒーとスニッカーズを2個入れて封をして小さなリボンをかけて、お客に渡す。
「お買上げありがとうございました。」店を出る客にドアを開け笑顔で「またのご来店を」と送りだす。
Aちゃんが「上手ね。」と感心してる。
「カワイイ子限定ならまかせて!」と笑って答える。
「スニッカーズ2個は支払いお願いネ。」ばれてたか。
「ナカムラさん、お弁当は?」ススムくんが聞いてきた。
そうだった。
「ボクは食事の必要ナイから、二人で食べてて。店番はボクがやるから。」
“そんな事、言っていいの!”って顔で二人がボクを見て、次にお互いを見てる。それを見てボクが笑う。
「ゴメン、ススムくん。ボクが“幽霊”だってAちゃんには話したんだ。」
「Aちゃん、イシカワ家はボクの事を知ってるよ。ススムくんがボクを連れてきたんだもの。」
「そうなの?」とAちゃんがススムくんに言う。
ススムくんがうなずく。
「ボクらの事も知ってるの?Aちゃん、恐くない。」ススムくんがAちゃんに聞く。
「全然。」笑ってAちゃんがススムくんをハグする。
「よかった。」ススムくんが笑う。
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翌日、朝の局長室。
イシカワさんが出勤してきたら、昨日のススムくんの話をしてOと繋ぎをとってもらおう。
イシカワさん達を巻き込まない方法はあるかな?
Barでの様子だとボクの事、以前会ったのに気づいてナイみたいだし、
途中で待ち伏せるとか?
イシカワさんが部屋に入ってきた。なんか、あせってる。
「おはようございます。」ボクが言う。
「おはよう、客を外で待たせてる。変なもの置いてないよな?」
ああ、この間イシカワさんに捨てられたエロ本ね。
「場所わきまえろ!」って散々怒られたもの。大丈夫ですよ。
イシカワさんが部屋とゴミ箱を一通り見渡して、
「内閣調査室のOと国連事務総長のゴンザレス・テディーラ氏がお前に会いたいって来てる。お前、何やったんだ?」
国連事務総長?来日してるってニュースでやっていた。
宇宙観測センターへの訪問の予定は入ってない。
突然の視察があるかもしれないって聞いてはいたけど。
アポ無しの朝一番だなんてありえない。
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「先日はどうも、ナカムラさん。」とOがジーッと見てくる。
ボクは職場用モードのオールバックのダテ眼鏡で笑い返す。
「いえ、こちらこそ。」
Oがイシカワさんに向き直り
「おたくの秘書は諜報活動もするんですか?」と皮肉を言う。
イシカワさんは何の事だかわからないのでボクを睨む。
「初めまして、ナカムラさん。」ゴンザレスさんが右手を出す。
日本語が上手だ。ボクは恐縮して右手を出し握手する。
“えっ、この人…”
“そうだよ、ゴンだよ。” ゴンザレスさんがニヤッとする。
「ゴン!」 思わずゴンをハグする。
ゴンも笑って、ハグし返す。
男ふたりのハグにギョッと驚くOとイシカワさん。
「まさか、大人だったなんて…。てっきりススムと同じ位と思ってたから。」
イシカワさんも驚いてる。ススムくんの友達ゴンが国連事務総長だなんて。
「以前から私と同じチカラを持つ子ども達が増えているので、ちょっと紛れて遊んでたんです。ネットだと相手の姿が見えないから偏見なく付き合ってくれて楽しかった。」
「そのうちススムくん達が“応えてくれない仲間”達を助けられないかと思案してる事を知りました。」
「ラーラさんでしたっけ?彼女の歌のおかげで僕らの声が彼らに届き、その子達を救う事ができました。」
「本当に感謝しています。」
「でも、まだ終わっていません。」
ゴンがボクを見る。兵隊にされてる子ども達の事だ。
「国連でも問題にされているのですが…。「志願してやってくる若者だ。子どもはいない。」の一点ばりで…。力づくで調べるワケもいかず、常任理事国の中にはその国との利益を共有している国もあり、悔しいです。」
「そんな時にあなたは私にOさんを調べさせた。何かあると思いました。」
「ナカムラさん。あなたはOさんに何をさせるつもりですか?」
Oが眉間にシワを寄せてボクを見ている。
どうやら気のいい大学職員ぐらいに思ってボクに気をゆるしてしまった事が癪らしい。
ボクはOさんに向き直り、
「コンゴ東部のミケノ山の中腹に子ども達を集めて訓練させてる場所があります。」
「山の麓に気づかれる事無く日本の平和維持部隊を待機させる事が出来ますか?」
「ボクらが子ども達に呼びかけますから、保護して下さい。お願いします。」
ボクはOに頭を下げる。
Oはため息をつき。
「私は一介の国家公務員です。そんな事できるワケないでしょう?」
「それこそ、ゴンザレスさんにお願いしたほうがイイと思いますが?」
Oがゴンを見る。
「総長とは言え、議会を無視する事はできません。議会の承認ナシでは平和維持部隊を動かす事は出来ません。議会ではその国と利益を共有する国が“内部干渉”だと反対してくるでしょう。」
「日本の部隊の駐留する地域に現在活動中の火山があります。彼らが隊員の安全上、部隊を移動する場所を検討中であり、その調査の為に…という事でしたら便宜上、その部隊からの報告があれば私の権限で許可する。という事は出来ます。」
ゴンがOを見る。Oが目を伏せる。
「…だから、私にそんな権限はナイと言ってるじゃないですか。」
「直接、総理大臣に協力を求めればイイ!」とOがゴンに言う。
しばらく間があって、ゴンが言う。
「総理大臣は非公式ではありますが “部隊をうごかしてもイイ”とおっしゃっています。」皆が驚いてゴンを見る。
「ただし、“私は直接、指示を出したくナイ”と“私にはある程度の権限を持たせてる調査職員がいる” “彼がその話を聞いて彼の判断で部隊を動かすというのは可能だ。” “彼は犯罪者になるだろうが…”とおっしゃっています。」
“オレの事か!”Oが動揺している。
「それで、今朝あなたを迎えに上がった次第です。」
皆が黙り込む。
“このアウェーの状態でオレに聞いてくるのか!”
“酷いじゃないか!
“せめて大臣から直接言われるなら、まだしも…”
Oの考えが流れ込んでくる。“切り捨てられた!”と。
ゴンがいう。
「総理大臣のゴトウ氏は良くも悪くも責任は全て自分が受けるとおっしゃってます。
人の命と人類の未来が掛かってるなら、しょうがないだろうと笑っておられました。
只、一国の首相が個人の判断で国のモノを動かすと言う事があってはならないと、
建前であってもそれは守らなければならないと…。
アナタにはすまないと…、おっしゃっていました。」
Oは黙ってる。
“あのバカ達のしりぬぐいをする事に比べれば、よっぽどヤリ甲斐はありそうだ。”
“オヤジが腹をくくるなら、やるしかナイか”
「わかりました。只、隊員の安全上、許された重火器以上の装備をさせて下さい。」
Oが承諾してくれた。
ボクが握手しようとするとボクの手を払い「この疫病神!」とののしった。
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ゴンが来てくれて助かった。
こんなに事が進もうとは…。
しかしゴンはどうして、ボクが日本の部隊を使って救出しようとしていたのが
判ったんだろう?
そうでなければ、総理大臣の協力を求めるなど無かったハズ。
ボクはゴンに聞く“ボクの考えをいつから知ってたんだ?”と
「あなたはTさんにその考えを言ってましたよね?」
「実はあなたがOさんとトリスタンで接触する時から人を使って警護していました。」
「あなたは、ボクらに取って大切な人ですから。」
「そしたら翌日の早朝、あなたがTさんに殴られてると聞きまして…。」
「相手がTさんだったので傍観していたのですが、話の内容が気になって
近くにいるナカマにTさんの考えを覗いてもらいました。スミマセン。」
「Tの事を知ってるという事はボクについて他にも知ってるのかい?」
「全てというワケではないのですが…。興味ある人物は調べたくなる性分で。」
まいったな。気をつけなきゃ。
またもや都合のイイ設定ですみません。
次の展開が苦しいです。