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土曜の朝。

休日だもの、朝はAちゃんと寝坊していたい…。

だけど休日こそ稼ぎ時、客商売だからしょうがない。

野菜サラダとトースト、ハムエッグ。リンゴ角切り入りヨーグルトを

テーブルに並べ、コーヒーを湧かす。

起きてきた、Aちゃん。

「朝食、作ってくれたの。ありがとう。」

「ボクは休みだもの。これぐらいはネ。」

「ココを掃除したら、弁当持って店に行くよ。ララァは土日、休みだろ?」

「ええ、でも私ひとりでも十分よ。せっかくの休みだもの。ゆっくりしたら?」

「Aちゃんと一緒にいたい。」(我ながら歯の浮くような事を…。)

彼女がはにかんで笑う。


Aちゃんの携帯電話が鳴る。

「Tさん?どうしたのかしら?」ディスプレイ画面を見て彼女が言う。

昨夜のララァの服の事か?

Aちゃんが携帯電話に出る。

「ナカムラさん?…」

彼女がボクを見る。ボクは腕で大きくバッテン。

「“居ないって言え”って言ってるわ。」とTに答える。

Aちゃん…。

「今、電話に出るなら殴るのは勘弁してやるって言ってるわよ。」

そして携帯電話を差し出す。

ボクはソレを受け取り、努めて明るく言う。

「おはよう、T。朝から、どうしたのかな?」

「昨夜は何をしていた。説明してもらおうか?」

「ララァから聞いてないのか?」

「あの後、急いで寮に送って行ったから詳しくは聞いてナイ。」

「彼女、お前の部屋に泊まるって…。」

「あんな格好でウロウロされて眠れるか!」

何を言ってるんだ?

「…まさか、ララァとは“まだ”なのか?婚約したんだよな?」

「だから、どうした。」

「お前、身体どっか悪いんじゃないか?」

「うるさい!」

電話を切られた。

しばらくして、電話が鳴った。

「はい、Aの携帯です。」

「話をはぐらかすな!昨日は何をしていたんだ!」Tだ。

ボクのほうは、そっちの話が気になるのだが…。

「協力して欲しい男がいて、そいつの事調べたくて…。」

「ララァに誘惑してもらった。」

ボクはTが怒鳴る前に電話を切る。そしてAちゃんに返す。

電話が鳴っても取るのはAちゃん。彼の怒りは半減するだろう。

あれっ?鳴らないね。

Aちゃんがボクを睨んでる。

「“ララァに誘惑してもらった”ってどういう事?」

聞いてたの?

「大丈夫。ボクとリネで守ってたから何もなかったんだ。」

「サイテイ!」

Aちゃん、怒らないで。

アラーム音。玄関モニターにTが写ってる!

Aちゃんがボクを引っ張って玄関ドアの前へ。

ドアを開けボクを突き出すと

「Tさん、おはよう。」とニコッと笑う。

インターホンを鳴らす前にドアが開いて面くらうT。

それでも「…おはよう。」と返事を返した。

「防犯カメラの無い所でやってちょうだいネ。」と言うと

ボクを置いてドアを閉めた。

逃げ出そうとするボクの襟ぐりをつかんでTがにこやかに言う。

「じゃあ、向こうで詳しく話を聞こうか?」

Tの顔が恐い。イイ男台無しだぞ。

______________________________


1発、グーで顔を殴られた。Tがフンと鼻を鳴らし尋問してきた。

(身体は無くても痛いんだぞ。気は済んだろ!アザ顔作らなきゃ。それと靴!)

「殴らないって言ってたじゃないかぁ。」とボクがぼやく。

「Aちゃんに免じて1発で済ませたんだ。感謝しろ。」

「帰る時の様子だと何も無かったようだが…。ララァは何もされてないよな?」

なんだ、そのゲンコツは?

「大丈夫だ。ボクとリネで守ってたから指1本触らせてない。」

「リネ?何処にいたんだ?」

「ボクと一緒に逃げた女の子がリネだ。」

「Barのカウンターでララァに寄ってきた彼との間にボクとリネが座って相手してたんだ。だから、触られたのはリネだけだ。」

Tが眉間にシワを寄せて言った。「そいつに同情するよ。」

「何、言ってんだリネのお陰でララァは無事なんだぞ。彼に感謝しろよ。」

「お前とリネの二人で行けば、すんだ事じゃないか!」

ごもっとも。

「それに、挑発しすぎダロ!なんだ、あの服は!」

「服はリネが用意した。」

「ヨシ。あいつも一発だな。」

「子ども相手によせよ。大人気ない。」

「あんな服、選んでくる子どもがいるか!」

ごもっとも。


「お前は、お前たちを化物呼ばわりするヤツを仲間にするのか?」Tが聞いてくる。


「アフリカに平和維持軍として日本の部隊も派遣されてる。」

「彼らの所にそういう子達が逃げてきたら保護しないワケにはいかんだろ。」

「もし、見てみぬフリをすれば、世界中から非難されるしネ。」

「でも、彼らを救う事が出来れば日本は見直されるし、これから増えていくススムくん達のような新しい人類を味方につける事ができるとOに交渉しようと思う。」


Tが心配そうに言う。

「そんな、簡単に行くのか?」

「お前が逆手を取られるかも知れないゾ?」

「“虎穴に入ずんば虎子を得ず”ってな。」とボクが笑う。

「そうだ。Oはお前に似てるってララァが言ってたゾ。」

「オレはあんな酷い事は言わない。」

ソノ通りだ。


部屋に戻るとAちゃんは居ない。店に行ったようだ。

さて、主夫はいそがしいゾ。

___________________________


昼前、弁当を持ってAちゃんの店へ。


ララァが居た。

「どうしたの?今日は休みでしょ?」

「今朝、寮にリネ君から電話があって、

 街頭ライブしないかって言われて…。」

「休日の方が聞いてくれる人も多いでしょって。」

そりゃ、そうだ。昨日の今日だというのに感心な奴。

「お客さんが来てくれるなら、私も嬉しいわ。」とAちゃん。


カウベルが鳴ってリネが入って来た。

「こんにちはー。」

「今日はラヴァーズ・コンチェルトとスマイルの2曲で行きましょう。」

はりきってるな。「たのむよ。」とボク。

「まかして下さい。」リネが笑う。

ララァに向かって「アレは?」とリネ。

ララァが紙袋を渡しながら「そのままでイイの?」と聞く。

「かまわないから。」と言いながら、

「じゃあ、外で待ってるから」とサッサと外へ出ていった。

なんか、不審な行動。怪しい。

「ララァ、何を渡したの?」

「昨日の衣装です。クリーニングして返すって言っても聞いてくれなくて…」

まさか!外へ出てリネを探す。店の横でコチラに背を向けてしゃがんでる。

ボクは奴の頭を背後から叩く。

「何、嗅いでるんだ!」驚いてリネが振り返る。

ン?視線がボクの後ろ?Tだ!

「ララァが歌うと聞いて、来てみれば…。」

逃げようとするリネを捕まえるT。

「T、演奏するから顔と手はカンベンしてやれ。」

「わかった。」

Tにコブラツイストを決められて、

「イタイ、やめて!」と悶絶するリネ。

歩行者が見てる。

「プロレスごっこしてるんですよ。仲のイイ親子でしょ?」と

笑顔で説明するボク。

演奏の前座としては…残念だ。


最初はヨロヨロとしてたリネだが、演奏が始まるとシャンとしてる。そして年上のララァをリードする。彼女も彼を信頼して歌う。やっぱり、以前のラヴァーズ・コンチェルトとは違う。格段にうまくなっている。

「あの二人を見てると不安になる。」Tが言う。

演奏をしてる時の二人。確かにあの二人の間には誰も入り込めない空気がある。

でも、それは演奏の時だけだ。ララァも、たぶんリネも解ってる。

「憶病者。そんな事言ってると、ララァが泣くゾ。」

驚いたようにTがボクを見る。

「だから、さっさとやっちまえ!」

Tに頭を叩かれる。チクショウ!


それにしても気になるのは、ララァとリネを囲む人垣の向こうに止まる黒塗りのベンツ。

車の側に立ち警護するスーツの男が2人。車の中の人物は誰だ?



リネの変態が前回から続いてます。

若さ所以の過ちってか?

今回はTの逆襲編。



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