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タクシーは永田町2丁目へ

「何で、オレが助手席なんですか?」

「お前、今は女だろ。“アタシ”とかって言え。」

タクシーの運転手がチラチラ、リネを気にしてる。

ボクは身を乗り出して、運転手に言う。

「すみませんネ。学祭で映画作ってて撮影に向かうンですよ。隣のは無害ですから気にしないで…」

リネが“ワザワザいい訳するほうが怪しいだろ?”とかって考えてる。そして、

“ナカムラさんこそララァの胸、見てるし!”とも考えてる。

当然だ。おまえみたいな若造が隣だったらもっと危ないダロ!

「ナカムラさん、私、どうすればイイんですか?」ララァが不安そうに聞いてくる。

「そうだな…。今から行くバーに男がいる。その男はリネの恋人なんだ。そういう設定を想像して。」ララァがうなずく。ちょっと胸がゆれたような…。

「それで、キミは彼らの恋路をジャマする悪い女っていうカンジで…。」

「“白鳥の湖”ですね!」ララァが言う。そうなの?

「白鳥オデットの恋路を黒鳥オディールがじゃまする話ですよ。」

「だから、リネ君が白でわたしが黒なんですね。」

なんか、ひとりで盛り上がってる。ララァがバレエを好きとは知らなかった。

ベストにかくれてるとは言え、動く度にゆれる胸に目のやり場に困る。

(Aちゃんなら、これくらいじゃゆれないゾ。)

「リネ、お前ちゃんと前向いてろ!コドモか?」

タクシーの中は変な空気が蔓延している。大丈夫だろか?

________________________________________________


タクシーから降りて、事前に調べた店の地図を見ながらたどり着いた「トリスタン」

古いビルの地下1階。階段を降りていく。どうやら会員制ではナイみたい。

よかった。なんか値段の張りそうな店を想像したけど違うようだ。

ドアを開ける、さらに細い通路が続く。通路の壁には有名人のサインが…ではなく、伝言板のように、書きなぐった文字のメモがびっしりと貼り付けている。外国語のもある。日本語であってもメモの内容はわからない。日付のようでもあるし、電話番号のようでもあるし。ただ地名だけがビッシリ書き込まれたのもある。ただの装飾なのだろうか?


ドアをあける。「いらっしゃいませ。」

ドア近くに控えた店員が話し掛ける。

「3名さまですか?コートやお荷物など何か、お預かりするモノはございますか?」

「3名でおねがい。預けるモノはないよ。」と返事する。

「では、こちらのボックス席へどうぞ。」

この店にはBGMが流れていない。時間も早いせいか客もまばらで静かだ。

店員も男性ばかり。カウンターに酒とグラスがあるから酒場だとは思うがBARというよりホテルのロビーのよう。…カウンター席にOがいる!ターゲット発見!

“ララァ、カウンターの男が「彼」だ。” ララァがカウンターを見る。

“どうすればイイの?”

“彼と少し離れた席に座って。” ララァがボクらから離れカウンター席へ歩き出す。

椅子に座り、脚を組む。Oがララァを見てる。“ヨシ、つかみはバッチリ。”

カウンターの中のバーテンダーをOが手招きする。

え?それって、まさかの?「あちらの方から…。」ってヤツ!

キターッ。ララァの前にマティーニが!

ララァが笑って彼に会釈してる。Oが彼女に近づいてきた。

真面目そうな顔して手が早いな。しかも表情ひとつ変えないで。

店員に「ボクらもカウンターがイイ。」と告げると、ララァとOの前に割って入った。

「あなた、ララァ君のお知り合い?」

突然、割って入ってきた男にOが驚いてる。

すかさず、ボクとOとの間にリネが割り込んでくる。

「ステキな方。こんばんは、リネです。」

しなをつくってOに媚びてる。(オエッ)。

「…こんばんは、お嬢さん。」

呆気に取られながらもリネに返事を返すO。

ボクはバーテンダーに

「ボクにジン・ライムを…。」

リネに視線を移して

「それと、彼女にソフトドリンクを。まだ、未成年なので。」

「かしこまりました。」

バーテンダーはボクらに背を向け酒を選び始めた。

ボクはOに向き直りながら椅子に座る。

リネも座る。Oもおされるように座る。皆の様子を見てララァもボクの隣に座る。

「初めて入る店なので緊張しました。ララァ君の知り合いがいてよかった。」

ボクはOに笑顔で話し掛ける。

「失礼しました。ナカムラと言います。」

「Oです。」

「イヤーッ、学祭の撮影が盛り上がって、勢いで“大人のバー”を覗きたいってこの子達にせがまれちゃって!」と笑う。

苦笑しながら、「学校の先生が生徒をこんな所に連れて来てイイんですか?」

とイジワルそうに聞いてくる。

(ボクは大学の人間とは言ってないが、そういう事にしよう)

「よくアル事ですよ。指導教授を交えての居酒屋親睦会とか…。1対1なら問題あるでしょうけどネ。そうか、男子も混ぜておくべきだったかな?」と笑う。

「でもね、彼女達ちゃっかりしてるんですよ。どうせ行くなら金もってそうな人のいる永田町がイイなんて言うンですよ。」とまた笑う。

バーテンダーがリネにオレンジジュースを持ってきた。

「どうぞ。」パラソル、パイン付き。

そしてボクにジン・ライムを。

「では、このご縁に。」ボクがグラスを少し上げる。彼も応えてグラスを上げる。

ララァにもグラスを上げて目配せ、ララァもそれに応える。

リネのグラスに軽く自分のグラスを当て飲み干す。

「ララァ君へのお返しに一杯、ご馳走させてください。」とボクが言う。

「…では、お言葉に甘えてジン・トニックを。」

ボクがバーテンダーを向くと“わかりました”という風に棚からジンの瓶を取り出した。

Oはリネに「金を持ってたらイイのかい?」と聞く

「そりゃ、持ってる方がいいでしょう?」と答えるリネ。

ふーん。と言いながら、Oの手がリネのヒザに置かれる。

リネは“もう!”ってカンジで笑ってOの手をつかんでカウンターに置く。

「じゃあ、今夜オレのところに来る?」

Oの手がリネのヒザに戻ってる。しかもなでてる。

「いきなりですか?」と笑ってその手をカウンターに戻すリネ。

頑張れよ、リネ。お前がそうやってる間はララァは無事だ。

しかし、この男こうしていてもガードが固い。

居酒屋なら酔いつぶす事はできてもBarでなんて…。今回、失敗かな?

“ナカムラさん” ララァが話し掛けてきた。

“リネ君、可哀相ですよ!”

しょうがないな。

「Oさん、彼女は未成年なんで勘弁してあげて下さい。」

Oが両手をホールドアップしておどけて見せる。

「お願いしますよ。」ボクも応えて笑う。

しばらくすると、やっぱりリネを触ってくる。

リネをどうこうしようとかではなく、リネの反応を楽しんでる様だ。

実害はナイだろう。それでもララァは気になるようで彼らをじっと見ている。

Oはララァがヤキモチ焼いてると勘違いしてないか?

“ナカムラさん、向こうにピアノがあります。リネくんに弾いてもらってください。”

“そうしたら、Oはキミを触りにくるぞ”

“イヤです。…じゃあ、私も歌います。”

“わかった。”

ボクはバーテンダーに聞いた。

「ピアノ弾いてもイイ?」

「どなたが?」

リネを見て

「彼女が」と答える。

Oに手をやくリネを見てバーテンが答える

「お気持ちはわかりますが…お客様がたは耳が肥えていらっしゃいますよ?」

それを聞いてリネが

「望むところですわ!」と言い放つ。

気迫に圧されて「…では、どうぞ。」と言うバーテンダー。

ララァも一緒に席を立ちリネの後についていく。

男ふたりが残されるカウンター。

「へー、ピアノ弾くんだ?」とOが言う。ココロの中で“逃げたな”と言いながら。

「なかなか、うまいですよ。彼女。」とボク。


水をえた魚のようにイキイキと指を鳴らしながらウォーミングアップ。

まずは試し弾き。それだけでも、店内の客がピアノに注目しだした。

ララァに“いくよ”と目配せ。前奏が始まる。

ジャズ風。さすがリネ、店の雰囲気を壊さない配慮を知ってる。

歌われる曲は“over the Rainbow”

ミュージカル「オズの魔法使い」で歌われる名曲だ。

リネがどういう風に演奏したいか、歌ってほしいのかが感能力を持つララァならわかる。

だからこそ、これだけ息のあった演奏ができるのだ。

それにしても、ララァ。また、上手くなってる。

もしかしたら、“歌姫”になるには場数が必要なのか?


“力があれば!”

突然、入ってくるOの思考。ララァの歌に聞きほれてガードが、がら空きだ。

やった!ララァのお陰だ。

ボクは彼のココロを覗く。


学生の頃に感じたこの国に対する不甲斐なさと理不尽。

“オレならこうする!” “オレなら解決できる!” “オレなら…”

この国を動かす力が欲しかった。ライバルを蹴落とし官僚の道へ、さらに高みへ。

今では、大臣へ忠言できるまでになった。…はずなのに。やってる事は代議士達の身内の犯罪のもみ消し工作とは!あの、10歳以下の通報者達はやっかいだ。子どもの正義感を押し通してくる。すでに表に現れては困る事件が5件。ヤツらは今まで反省などした事がない。また同じ事を起こすのだろう。そして子どもの口に戸は立てられない。マスコミにでも知られると…。いっその事、“脅威”であると隔離してしまおうと思いもしたが…。先日の宇宙観測センターのイシカワと言う男の言葉。「彼らに人権はナイと?」の言葉に動揺している。「何を今さら…」と重いながら。彼の目を見返す事ができなかった。苦し紛れに「サトリという化物をご存知ですか?」などと誤魔化して。今まで「ココを越えれば」と何度目をつぶった事だろう。そして、オレはどこまで墜ちていくのだろう?

オレが追い落としたかつての仲間。故郷の彼女。どうしているだろう。


ナカムラが見る限り、Oは悪人ではないようだ。それなりの影響力も持ってる。

話せば意外と力を貸してくれるかもしれない。

もちろん、彼にとってオイシイ話であればだが…。


気が付くとステージにはスポットライトがちょうどララァの頭上から照らされている。

光の具合で彼女のシャツが透けて見える!危なっかしい事、この上ない!

だれだ、ライト点けたのは!

早く終わってクレ!


演奏が終わった。客は数人しかいなかったが、皆が彼女たちの為に拍手をくれた。

ララァがおじぎをする。しなくてイイって!客の目が彼女の胸に…。

コラ!リネ。気づいてるクセに早く連れて来い!


「では、Oさん。帰りが遅くなると彼女達が寮に入れなくなるので失礼します。」

「楽しいお酒でした。また今度。」彼が右手を出してくる。

「ええ、こちらこそ。」ボクも握手を返す。

戻ってきたリネに「ゴメンね。楽しかったよ」とOが声をかける。

リネが引きつって「私も!」と答える。(お前、がんばったヨ。)

ララァに「キミはオレが待ってる人物かと思った。勘違いだったね。」と笑う。

…そういう事か。ここで彼は情報屋と連絡を取り合ってたんだ。そして狭い通路のメモ書きも何らかの伝達方法なのだろう。とするとココにいる客も皆、怪しいネ。


ボクは2人を先に出して、会計を済ませる。想定内の額で助かった。

バーテンダーが出てきて、名刺を渡しこの店のオーナーである事

よければ、ララァとリネ、ふたりと契約したいと言ってきた。

とりあえず、二人に伝えます。とだけ言った。


外に出ると二人が待っていた。

「店のオーナーがキミたち二人と契約したいと言ってるけど。」

「無理ですよ。オレ15ですよ。」

「リネ君がいなければ私もダメです。」

リネが感激してララァに飛びつこうとする。

あのハダカ同然の胸に!

さすがに何かを感じたのかララァがリネをかわした。

「ララァさん、酷い!」当然だろう。

「何だか、タクシーの中での話と違ってましたネ。」

「彼の、Oさんの事を調べてたんですか?」

さすがに気づいちゃったか。

「ちょっとね。彼がボクらの味方になってくれないかなーと思って」

「Oさん、何だかTさんに似てますね。」

驚く事を言う。でも、言われて見れば石頭だし、融通利かないし、不器用だし

違うのは自分の道を見失った事かな。

「何、言ってるの。Tはあんなにイジワルじゃないよ。」

ララァが照れて笑う。リネは面白くない。


「何だ、その格好は!」

驚いて振り返るとTがいる!なんでTがいるんだ!

「迎えに来てもらいました。どうせ明日は休日だし泊めてもらおうと思って」

「そんな~!」リネがへたる。ショックなのは判るが今は逃げろ!

「じゃあ、後はヨロシク。」ボクはリネを抱えるように脱兎のごとく逃げた。


ナカムラの奴、ララァに何をさせてるんだ。それにしても、あの逃げ方は…。

ララァに近づいてわかった!なんだこのハダカ同然のシャツは!

「ナカムラー!」

夜の永田町2丁目にTの怒声が響く。


「ナカムラさん、リネお腹空いちゃった。ウフッ。」(ウゲゲッ)

「では、お嬢さん。“一楽”でラーメンでもご一緒に如何ですか?」(ウゲゲッ)

「喜んで!」(ウゲゲッ)

ダダの声がする。

“お前ら、その気持ち悪い遊びヤメロ!”




Barでの「あちらの方から…」という、シチュエーションは実際にはあまりナイようです。ネットで調べる限り“実体験”というのがなくて…。やはり、妄想の産物なんですかネ。


今回はR15はみだしてませんよネ。

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