(13)
ララァ、ボクは君を尊敬する。
二日酔いの状態のTをどうやって、口説き落としたのか?
今のボクには想像も出来ない。
Aちゃんはゲロゲロの最中だ。トイレとベッドの往復だ。
可哀相だからボクが運んであげてる。背中をさすりスポーツドリンクをすすめ
ダウン状態の彼女にオロオロしている。やっと落ち着いたのか眠ってくれた。
ボクも彼女の寝顔を見て安心した。
床に座ってベッドに上体をあずけ彼女の寝顔を見ながら寝てしまった。
気がつくとボクの頭を彼女がなでている。
「おはよう、Aちゃん。気分どう?」
「お店出られそう?ララァに連絡しようか?」
ちょっとヤツレた彼女がベッドで微笑んで“来て”って手を広げている。
ボクも笑ってハグ。目覚めたら“誰かがいる”っていいネ。
それがAちゃんなら、なおさらサ。
______________________________________________
センターの総務部。
向こうからスキップでやってくるのは…、ナカムラさん?
「おっはよう!Cちゃん!」「今日もカワイイね。」
いつも以上に浮かれているナカムラさんを総務の皆が見てる。
「キー、ちょーだい。」
局用車のキーを渡すと「じゃーねー。」と戻って行く。
ポアント(つま先立ち)、シュネ(回転移動)から大技グラン・ジュテ(跳躍移動)。
そして総務に向かってアラベスク(キメポーズ)。まばらな拍手が起こる。
ドヤ顔のナカムラさんを局長が赤い顔して引っ張って行く。
「ナカムラさん何かイイ事があったのね。」とCは思う。
____________________________________________
警察庁からの帰りの車中。
「イシカワさん、さっきの話…。」
ボクはバックミラーに映るイシカワさんを見る。
「ウン、ススムたちの事だね。」
「いつか皆、気づくとは思っていましたが…。彼らはどうなるのでしょう?」
「異質なものは怖れをもって迎えられる…。」目を伏せ腕組みしてるイシカワさん。
「だが、彼らは私達の子どもだ。そうはさせたくない。」
「同感です。」
今朝の最高の気分から、急降下。“うまくやっていける”と思ったのに。
昼過ぎ、警察庁に出向いたイシカワさんとボクが通された部屋には
特殊犯罪課主席主任という肩書きの人物が待っていた。
「申し訳ありません。もう少しお待ち頂けますか?渋滞で遅れるとの事で…。」
まだ、誰か来るのか?5分ほどして、ノックの音が。部屋に2人の人物が入ってきた。
「お待たせして申し訳ありません。さっそく始めましょう。」
「内閣調査室のOと言います。」「厚生省のIです。」
主席主任が言う。
「犯罪とは直接関係ありませんし…、警察では対応しかねるという事で
国の機関に報告した内容はこうです。」
10歳以下の通報者が増加している。
只の通報ではない。
逃走した犯人を短時間で探し出し通報するのだ。
まるで犯人の考えている事が解るかのように犯行の動機、過程を説明し
居場所を突き止めて通報するのだ。
最初は子どもという事もあって参考までにという扱いだったが
警察が捜査した結果と一致する事に驚いた。
そして、そういう子ども達が日ごとに増えている。
彼らの共通点は“10歳以下”であると言う事だけ。
「これが通報者の年齢別の日毎のグラフです。」
「これは、都内での件数ですか?」イシカワさんが聞く
「はい。現在他府県での詳しい統計を取り寄せていますが
やはり、同じような通報者は目立って増えているようです。
報告は以上です。」
イシカワさんが言う。
「確かに奇妙な話とは思いますが…。
その件と宇宙観測センターの報告した“龍”のデータと何か関係が?」
「Iさんの報告を聞いて頂けますか?」内閣調査室のOさんが言う。
厚生省のIさんがイシカワさんに“よろしいですか?”という風に会釈する。
「内閣調査室の指示で通報者の子たちに任意で協力頂いて、DNAを調べてみました。通常は1対の性染色体と22対の常染色体ですが彼らは24対持っています。本来であれば身体的な異常や知的障害が見られるのが通常ですが彼等には見られません。それと、通報の際に軽いケガをしたという少年に頭部CTスキャンをしてもらいました。前頭葉に常人に見られない器官が見つかりました。結果を申し上げます。彼等は私達とは違う人類です。」
再びOさんがイシカワさんに向かって言う。
「ココから先は笑って頂いても構いません。」
「あらゆる可能性を考えてみて…と言う事でお呼びしました。」
「彼らが生まれた頃にあった事といえば“龍”の出現です。」
「突然現れ、そして突然消え今だに何だったのか謎の存在です。」
「アナタたちの資料を改めて別の研究所で解析しなおしてもらいましたが何もでませんでした。只、数時間の発光現象と水素・ヘリウムを含んだ大量のプラズマの噴出。アノ現象が何かしら影響を及ぼしたのではないかという事位です。」
「当時、アレを観測してたアナタたちは何かを隠してはいませんか?」
「たとえば、アレが意思をもった何者かの仕業…。宇宙人の侵略であるとか。」
皆がOさんを驚いて見つめ、イシカワさんが噴出した。
「失礼。…ですが、もしそうだとして何故その事をセンターが隠すんですか?」
「危険が去るまで“龍”の存在は隠してましたよね?」
「アレの存在は当時の総理大臣から国の次官クラスの方々は知っていました。」
とイシカワさん。
Oさんが言う。
「宇宙観測センターは国連に所属しています。国連がシークレットと判を押せば、たとえ総理大臣であろうと秘密を知る事はありません。…私が申し上げてる事はそういう事です。」
「そう、言われてしまえばコチラも信じてほしいと言うしかありません。龍の事件以降、私が知る限りセンターが秘密にしている事項は一切ありません。」
このOとIという男の心の中はススムくんたち新しい人類に対して恐怖を抱いてる。
すでにIなどは「いっその事、死者でも出れば、解剖できるのに」とまで考えている。
同じ人類とは思っていない。
「判りました。では、今後のご協力よろしくお願いします。」
「もちろんです。」
イシカワさんが尋ねる。
「今後、彼らをどうするおつもりですか?」
「まずは、現状調査です。厚生省から全国へ通達は行ってるハズです。」
「その後は?」
「国の管理下に置かれるのが安全と思います。」
「もちろん、人権に関わりますから、新しい法を作る必要があります。」
「彼らには人権はナイと?」
「サトリという化物をご存知ですか?彼らはソレです。」
「…私たちを継ぐ新しい人類とは考えられませんか?」
Oはイシカワさんを見て
「アナタ、何か隠してませんか?」と問う。
「イイエ、“侵略”なんて、あまりに偏った考えだなと思ったものですから。」
さすが、イシカワさんだ。ボクだったら「サトリ…」のあたりでぶん殴ってる。
「では、失礼します。」イシカワさんとボクは部屋を後にした。
今回は一気にトーンダウンです。
頑張れ、ワタシ!