(1)
“天かける龍”から半年ほど経ったナカムラのもとに、
聞こえてきたのは…。
ナカムラ・シリーズ第3弾、スタート。
ダダがボクのPVを編集してる。曲は“愛は時の彼方に”(ウゲゲッ)
歌はもちろんクチパク。画像は踊ったり、演技したりのボク。
イメージの断片が何重にも重なり、画像フィルターもそれなりに効果良く使われ
出来もマァマァ…って
冷静に見れるかー!こんな恥ずかしいモノ!
ダダが蔑むような、感心するような目でボクを見て言う。
「よく、こんな事できるなー。」
「オマエがさせてるんだろうがー!!!」
大声出しすぎて頭がクラクラする。
ボクの失恋をネタに稼ぎ続けて半年。
そろそろ飽きられたのか、僕らの事務所も落ち着いてきた。
Aちゃんやボクのキャラも今や勝手に歩き出し2次作品へと移行しつつあった。
そんな時にダダから食事の招待が…。
「フロルがオマエを夕食に呼べって言ってるんだが、来るか?」
久々の手料理。
「行く!」
ダダの奥さんフロルの手料理はウマイ。
ボリュームもある。申し分ない。
さすがに毎晩ゴチソウになるわけにはいかないが、
独り者のボクを気遣ってかよく招待してくれる。
都市部のハズレに田舎風の庭付きの家。ダダ念願の庭付きの家。
今時はかなりの高額物件だ。
それもこれも全部あの恥さらしのPVやらポスターやら握手会の稼ぎのお陰だ。
ダダ、ボクに感謝しろよ。
玄関が開いてフロルが現れた。
地球で見たラファエロ・サンツィオの聖母を思わせる美貌。
金髪の巻き毛。青い瞳、頬に紅さす白い肌。ひと目見てタメイキが出た。
そして、ばら色の唇が発する言葉は…。
「ナカムラー!よく来たな!」
このギャップ。
初めて会った時はダダが悪ふざけでアフレコでもやってるかと思ったくらいだ。
さすがに慣れては来たけど相変わらずだ。
そしてダダには彼女に良く似た双子の女の子とダダに髪の色と利口そうな広い額が似ている男の子がいる。
彼女と子ども達が一緒の様はルネサンス期の聖母と天使の絵を髣髴させるが内容は
「母ちゃん、腹へった。」
「待ちな、客が先だよ。おとなしく待ってろ」
「マテねーよ。コレいただき!」
「コラッ!」なカンジ。
相変わらず、にぎやかだなー。
食後、リビングでダダとコーヒーを飲んでると例の双子がやってきた。
「ナカムラのおじさん、コレ読んで!」
「“おじさん”じゃない。“お兄さん”だ。それに、“読んで下さい”でしょ?」
こんなに可愛くて、あと10年もすれば美しい娘に成長するだろうに
この家の躾はどうなっているんだ。
「おいで。」
二人をヒザに乗せ絵本を読んでやる。
いつものようにしばらくすると二人はウトウトしだす。
寝てしまわない内に彼女たちを子ども部屋のベッドに寝かしつけ絵本の続きを読む。
しばらくすると2人とも寝てしまう。
毛布を掛けなおして明りを消す。
二人の寝顔を見ると、ちょっとだけAちゃんを思い出し切なくなる。
…未練だな。
リビングに戻るとダダとフロルが酒を飲んでいる。
マズイ、彼女の酔いは早い。からまれるぞ。
目がトロンとして上気した頬が色っぽい。
しかし、その口から発する言葉は最低だ!
「なんだ、ソノ顔は?」
「何が“Tと仲良くね”だ。もったいぶってるから未練が残るんだ。
さっさとヤッチまえば良かったんだ。」
ボクもさすがに怒った。
「黙れ!バカフロル!」
他人の傷心を商売にする旦那も旦那だが、そのキズに塩すりこむこの女房も女房だ!
「Aはお前と一緒の“今”が欲しいだけなのに、お前はバカだ。」
「彼女が私が考えてるような女なら、Tと暮らしてるワケないね。」
フロルが言い返してくる。
“飲め”とばかりに適当に作った水割りのグラスをボクに突き出す。
泣いてくれるのか?フロル。
今となってはそんな事…。
ダダが咎める。
「子どもの前だぞ、二人ともヤメロ。」
エッ?ムゥがいた!
さすがに大人げ無い所を見せてしまった。
ムゥはボクと同じ能力者の卵だ。
能力はココでは皆が持ってる力だ。その質も力も多種多様、千差万別。
ただ、なかでも抜きん出て強い力とコントロールを持つ者が現れる。
それが能力者と呼ばれる者たち。
能力者と認められた者は早くから力の使い方を指導してくれる後見人を付けられる。
相棒の子という事でボクはムゥの後見人を引き受けた。
そうは言っても遊び相手になるぐらいだけど。
「ナカムラのおじさん」
ムゥがボクを呼ぶ。
「“お兄さん”だ、ムゥ。ごめんよ、恐かった?
キミのお母さんとケンカしてるワケじゃないんだヨ。」
ムゥがキョトンとしてボクにいう。
「母ちゃん?関係ねーよ。おじさんを呼んでる子がいるんだ…。」
「ボクを呼んでる子?」
「その子がおじさんのガードが強くて呼んでも気づいてくれないって言うんだ。」
「だから、“ボクの事を伝えて”って言ってる。」
「誰?」
「ススムって名の子だ。」
ススムくん?まさか。だってあの星はもう無いのに。
ボクはガードを外す。小さく頭に響く声。集中していないと消えてしまいそうだ。
「ナカムラさん?ボク、ススムです。覚えていますか?」
「ナカムラさん、地球に来て下さい。助けてください。」
本当にススムくんなのか?信じられない。
最近は調査委員会からの召喚が執拗でずっと無視してた。あの“龍”の件だ。
宇宙をリセットさせる高エネルギー体の夫婦との遭遇なんて、そうアル話じゃないしね。
そして、ダダは「只でデータ取られて管理されてお蔵入りじゃもったいない。」と
近々あの“龍”の件をデータ付でレポートにして販売するつもりだ。
「知識、経験は公表してナンボだ。あとは、勝手に転がせておくのが面白いんだ」と。
それでも委員会は勝手に公表される前にSTOPを掛けたいらしい。
曰く「類似する宇宙において類似の存在は在り得る。よって“龍”の存在は社会を不安に陥れる」と。
始まりがあれば終わりはある。そんな事、心配してどうする?
そん時はそん時だ。隠しておく方が不健全だ。表現が変か?
調査委員会は能力者を使ってボクやダダの考えを探ろうとする。
当然、ガードも強くなってしまった。
そして、このススムくん。本物なのか?ガードを外させる為の囮なのか?
試させてもらおう。もし、囮なら許さない!
ボクとイシカワ家しか知りえない事。
「ススムくん、ボクが残した映像メモリの中でBGMに使われてる曲を知ってる?」
しばらく間があって、
「ナカムラさんの映像メモリは知らないけど、
お母さんが作ったナカムラさんとTさんが出てくるお話をしてくれる時、
歌ってくれる歌があるんだけど、それかな?」
「“you are my sunshine”ボクの子守唄だよ。それがどうかしたの?」
ススムくんだ!本物だ!
まだ、信じられない思いだけど(だって、あの星は…)ボクはススムくんに呼びかける。
「ゴメンネ、ちょっと信じられなくて。試したんだ。本物のススムくんなんだね。」
「ススムくん、何があったの?」
「ごめんなさい、もう時間が…。また来ます。」頭の中の声が小さくなって消えた。
我に帰る。喉が渇いた。先程のフロルの水割りをいっきに空ける。
思わずムセる。酒9に水1なんて水割りじゃねー!バカフロル!
撒き散らした“酒割り”を拭きながら迷惑そうにダダが言う。
「で?何なんだ、今度は?」
オッ、さすが相棒。騒動の前触れを感じたのか?
「信じられないと思うけど…。ススムくんだ。ホラ、イシカワさん所の赤ちゃん。」
「赤ちゃんじゃなかったけど、確かにススムくんだ。」
「でも、地球もあの宇宙も消えてしまったのに…。“助けてほしい”って。」
ダダは表情を変えない。信じてないのか?
金儲けしか考えない前頭葉をピタピタと指の腹で叩く。
何か心当たりでもあるのか?
「飲も!飲も!」フロルが割って入って来た。例の“酒割り”を持って。
「フロル!それ、水割りじゃないぞ!前に教えただろ、酒1に対して水2.5だ!」
「細かい事言うなよー。酔っちまったら同じだ。」フロルが笑う。
「フロル、ナカムラと書斎で話があるんだ。酒盛りは今度ナ。」ダダが言う。
ダダの考えを察したのか素直に
「わかった。ナカムラ今度ナ。帰る時は声かけてナ。」と言うとダダにキスして
その場を片付け始めた。独り者の目の前でよくもヌケヌケと見せ付けやがって。
前回でナカムラの話は終了。と爽やかに(?)endしたのに…。
未練です。まだ、いじり足りない!
事の起こりはナカムラの相棒、ダダ。この名前どこから来たンだ?と考えたら…。思い出した!「11人いる!」のタダトス・レーン、愛称タダ。1字違うけど、アノ優等生タダが金儲けが大好きなちょっと腹黒なオジサンになったら…。そしてあのフロルが奥さんで…と考えだしたら妄想が止まらない。萩尾望都ファンの皆さんスミマセン。同一人物ではないのでお許しください。
それと、思い出した事がもう一つ。HOSの名前。どっかで聞いた事あるなと思ってたら、機動警察パトレイバー the Movie、に出てた「ハイパー・オペレイティング・システム」HOSでした。ウチは「ホーム・オペレイティング・システム」ですが。あの映画も良かったー。押井守作品の中で私の中ではNo.1です。