大いなる買い被り 8
宰相というかなりな高位についているだろう男性は、こちらを相変わらず真摯な瞳で見ている。
「ユーリ殿…、どうかお願い申し上げる。」
先ほどからの話しぶりにも、国のためにこちらを説得しようという姿勢は感じられた。
そして、年齢の割には身のこなしも機敏で、しゃんと伸びた背筋にも老いを感じさせるものもないけれど、そのたたずまいは落ち着いた様子だった。
そんな人が、自分のような若年者がすがるように見られては、落ち着かないのはしょうがないだろう。
それに、神殿で、安全のためにと保護(軟禁ともいえるか)されていた私を訪れ、手紙をよこし、私を気遣い、外の様子を知らせてくれたのはこの人でもあるのだ。
もちろん向こうには向こうの思惑があったのだろうが、日々閉じこもらざる得なかった私にはかなりありがたかった。
そんな人物が、私のような自分の半分の年齢にもなっていないような小娘に頼っていることを考えると、やはりここは協力すべきか……
そんなためらいを私の表情から読み取ったらしい。
横から後押しするように、魔術師が言う。
「わたくしからもお願いいたします。
部下からの情報では、相手は直接傷を与えるような魔術は一貫して使っていないと聞いております。勇者様に危害の及ぶ可能性は低いというのが我々の見解でして、それもあって今回お願いに参った次第でもあるのです。
もちろん、いらっしゃった際には総力を尽くして安全をおはかりします。」
こちらは淡々と私を納得させようという様子だ。
魔王とやらが攻撃魔術を使っていないということは初耳であった。
それだけでは私に危険がないと言い切ることはできない気もしたが、そもそも私にこちらの魔術は効かない。
王宮側も一種神殿からの借り物となる私に怪我をさせたくはないだろうから、威信をかけても出来る限りのことはするだろう。
空中でいまだににやけた顔をしつつも、私に向かって意味ありげな眼を向ける子供からは、別に自分の好きなようにやれと初めから言われている。
それに、この国に滞在する以上、どうせ耳に入らざるを得ないことでもある。
「私に何ができるかはわかりません。
はっきりした保障は出来かねますが、何か力になれることがあるのならば、
この国に生活するものとして手伝いたいと思います。」
このくらいは今の時点で言ってもかまわないだろう。
いまだ自分の手を握りしめている神官姿の少年をみると、心底納得したわけではなさそうだが、反論はしないでくれた。




