大いなる買い被り 6
王様はその視線をそらさないまま低い声でこんなことをのたまってくれた。
「勇者殿のお考えを聞かせては下さらないだろうか。」
一瞬何を言われたのか把握できなかった。
「陛下?」
「リラ王、どういうつもりです?」
王様の発言の意図がつかめないのは他の面々も同様らしく、側近の二人や神官の少年も怪訝そうな顔で言葉を向けていた。
ただ、頭上に浮いている上級精霊――ロアと呼んでくれと自己紹介された――だけは面白い事を聞いたとばかりに顔をにやつかせている。
行儀の悪さも相まって、とても自然界をつかさどる精霊とは思えないほどのガラの悪さだ。
そう内心つぶやいたことがばれたのか、不意にロアが私に目を向けた。
何か文句でも言われるのかと思ったのだが、その顔は5,6歳の見かけにはそぐわぬほど大人びた真面目な表情だったので、戸惑ってしまった。
「つもりも何も、文字どおりの意味だ。
われわれは確かにそれぞれ勇者殿、いやユーリ殿を必要としているし、協力してもらえるのなら願ってもいないことだ。
けれどそれはあくまでこちら側の事情にすぎないのだろう?
ユーリ殿にはユーリ殿の事情があってこの世界に来られた異世界からの客人だ。こちらの人間が、本来何かを彼女に強いたりできる立場ではないと思っただけだ。」
王様は周囲の反応に何ら動じることなく、淡々と考えを述べていく。
(へえ、王様なのに謙虚だね。てっきり無理やりにでも言うこと聞かせようとする人かと思ってた。)
イメージをいい意味で裏切る発言に、私の中で王様の好感度がグーッと上昇する。
実は、今日王城に来るまで、まるでリラ国は残酷非道の輩の巣窟のようなものだと感じていたのだ。
自分でもそんな先入観を抱いていたとは気付かなかったがおそらくは……
「なんてことをおっしゃるのか。
神のご意思を疑うとおっしゃるのですか?
巫女様はライラ神が、この世界を思って下されたお方。
その祈りを神にささげていただくことにより世界の安寧を図るという、神がくだされた定めは、人が左右できるものではないでしょう。」
このように神さま至上主義の神官たちが近くにいたからかもしれない。
(いやー、神官がたの期待はありがたいんですけどね?
やらされることも神殿に引きこもって祈ってろとかいうのだから、別に身体的負担はさほどないんだけどね?
そこまで一人の人間に神威だとか押しつけられるのはちょっと……)
こんなことを言うこの神官師長でも、私が接した神殿の人々の中では話がわかるほうに分類されるのだから、なかなか難しいものだ。