大いなる買い被り 4
「お三方、冗談はおやめください。
巫女様はこの世界の安寧のために、神殿の奥深くで、神に祈りをささげていただくべき存在。
心安らかに過ごせるようにできうる限りのことをするのが、この世界に生きるものすべての責務というのに……。
巫女様に何の関係もない魔王のためにその身を危険にさらすなど、大神殿の神官師長としても、一人の人間としても、許せることではありません。」
悠里の手を放そうとはせず、愛らしい顔に激情を乗せて、そう言い放ったのは、この世界に強い勢力を誇るライラ教の神官師長――よくは分からないがかなりトップに近い地位らしい――である。
「そもそも、この方が大神殿の奥の泉から現れたということだけでも、女神様のご意思がどこにあるのかわかろうというものではありませんか。そのためこちらでは護衛も付けてその御身の安全を図っているというのに。
それを、再三の呼び出しで王城まで連れ出してそのようなお話とは…。リラ王はこの世界全体のことはどうでもよいとおっしゃるのか。」
神官は、部屋の隅に控える神殿騎士に視線を向けながら続ける。
(あー確かに私がはじめについたのって神殿の管轄区域みたいだからなあ。
発見してくれたのもあの騎士さんだったし…。
はっきりとはだれも言わないけど、私の所有権?みたいなものは神殿が握ってるってこと?
こっちの世界にも、落し物は拾い主がもらうなんて概念があるのかもなー。)
この世界に落ちてから、衣食住すべてを神殿に世話になっている身としては、そのことも盾に取られたら何も言えなくなるだろう。
今のところ、神殿にも少年個人にも恩に着られるようなことはない。ただひたすらこちらの過ごしやすいよう気を使ってくれるので、ますます何も言えなくなってはいるが。
王国側は、現れた場所や神殿の権威そのものを持ち出されてしまい、反論できないでいる。
そこに気の抜けた声が上から降ってくる。
「ねー、その話まだ続くの?っていうか愛し子を呼んだのは僕らなんだから、この子は僕らのなんだよ。勝手に魔王だの女神だの理由つけないでよね。」