大いなる買い被り 11
少年は私を見ると納得したようにうなずいた。
彼は、今日は一日中私に付き添う予定と聞いていたし、思いがけず話が長引いたため、さすがに私に休息が必要だとも思ったのだろう。
今も自分が手を握っていたせいで、私がたちっぱなしだったことに気付いて心なしかあわてて私を椅子に座らせようとする。
それをやんわりと断りつつ、どうせなら握っていた手にもっと早く気付いてほしかったと思う。
私は決して彼らが思うほど病弱だったりはしないが、座り心地のよさそうな椅子があってかつ必要もないのに立ち続けるような趣味はない。
しかしたいていの場合、神殿の人たちは本当にすぎるくらいに私の身を案じている。
初めの日に私がうっかり意識不明になったのがいけないのだろうか。
あれは無理にこちらの世界に来た副作用だからとはそのあと説明されたから、平気かと思っていたが。
今回の訪問も、再三王宮からの登城の催促があったにもかかわらず、常に断っていたため、ついには勅命での公式な文書が下されたためしぶしぶ許可を出したらしい。
それに向こうが神殿に来て私と接することもかなり制限があった。
宰相の訪問は頻度はともかく一回の時間が短いものしか許されなかった。そのため、交わした言葉は手紙によるものが多かった。
まあ、そんな神官からの無言の許可を得たので、私は王様に向かって言う。
「そうしていただけると助かります。
ただ、一刻を争うことだとおっしゃってましたし、皆さんの執務もあるでしょうから、そちらの都合のよい時間で構いません。」
「…そうか、しかしひとまず別室で休まれるとよいだろう。
今案内させよう。」
先ほど瞬間的にゆるんだ口元を再び引き締めていた王様は、私の言葉を聞いて眉をひそめたように見えた。
脇に控えていた魔術師に向かって何事か言ったあと、背後にある何かパイプのようなものをいじったとたん、私たちが入室したのとは違う扉から侍従服を着た男性が登場する。
「こちらを、青磁の間までお連れするように。」
そう指示をしたあと、今度は振り向いて今度は私たちに言う。
「その部屋に軽食も用意させる。そちらでまた今後について話したい。
…もしかすると私は遅れるかもしれないが、どうぞくつろいでいてほしい。」
言葉が終ると、その侍従はこちらに向かって無言で恭しく礼をする。
そうして、私は再び少年に手をひかれ、後ろにサーリを従えながら、部屋を後にした。