大いなる買い被り 10
そういったのは今まで終始無言を貫いていた騎士のサーリだ。
私がこの前教えてもらったところによるおと、『場を移す』という表現は単に場所を移動しようという意味だけでなく、お茶や軽食をつまめるようなところに移動しようという意味もあるらしい。
神殿では頻繁に使われていた語である。
その言葉はかなりありがたかった。
初めにこの部屋に来た時に配られた飲み物ももうずいぶん前に飲み干してしまったし、長時間の話し合いでも普段ならば昼食だろう時間も大幅にすぎている。
それに加えて、話し合いが始まったばかりのころ、熱が入りすぎたあまり王様以外の人が椅子から立ち上がってしまい(私は入室した時から、少年に手を掴まれたままだったのでいたしかたなくだったが)、その後も何となく自分だけ座るわけにもいかないかと思ってそのままだったので、足が疲れてきていたのだ。
サーリは体を鍛えているから、彼にとってはこれくらいはもちろんなんてこともないのだろう。
きっと、毎日一緒に過ごしたせいで、私の悲惨に思えるほどの体力の無さを身をもって知っている彼が、助け船を出してくれたのだろうと思った。
直接的に何かを口には出すのは品がないとかという理由で生まれた言葉らしいが、王宮でも日常会話としてあるのだろうか?
回りくどいし、いろいろなニュアンスを含んでるから、私もここに来た初めは「つまりは移動したいの?部屋に帰れっていいたいの?それともお茶の誘いなの?」と頭をひねらせた言葉だ。
「ああ、確かにかなりの時間がたっているな。ユーリどのたちには申し訳ないことをした。
良ければ一度体を休めてもらってから、昼食をとりつつ今後の予定を話せないだろうか?」
そのふくんだニュアンスを正確に読み取ったのだろう王様が、そんなことを言ってくれる。
私はもちろんかまわないが、引率役と思われる少年はどうだろうか?
現在の私は神殿の外では誰かしら神殿のものがいないと何も一人ではできない。
身元引き受け人のような立場に神殿がある。
護衛役のサーリはあくまで私の身の安全のためにいる人間だし、精霊はそもそも人間でもなければ一般人には見えない存在だ。とうてい私の行動に責任を負えるものではない。