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第90話 峡谷の狩人



 自由都市バルデの北方に広がる「断裂峡谷グランド・キャニオン」。

 赤茶けた岩肌が牙のように切り立つこの場所は、気流が乱れ、レーダーが効きにくい天然の要害だ。


 その谷底を、アヴェンジャーは地を這うように飛行していた。


『……帝國の先行偵察隊だ。ハウンド型が3機、10時方向から来るぞ』


 カイルの声には緊張感がない。

 後席のモニターを見ている彼も、もはや帝國の最新鋭機を「脅威」とは感じていないのだろう。


「分かってる。……匂うもの」


 私は操縦桿を軽く倒した。

 岩陰から飛び出した3つの影。

 流線型の美しい装甲を持つ帝國軍の量産型ドラグーンだ。

 かつての私なら、操縦技術テクニックを駆使して背後を取り合う相手だった。


 けれど、今の私には、それらが「飛び回る羽虫」にしか見えない。


「――捕捉ロック


 私は右腕を突き出した。

 連動して、アヴェンジャーの右側面に同化した巨大なレールキャノンが鎌首をもたげる。

 照準器レティクルはいらない。

 私の右目が、先頭の機体の動力炉ハートを直接睨みつけている。


 ドクンッ!!


 心臓が大きく跳ねた瞬間、血管の中の魔力が右腕へと奔流となって流れ込む。

 チャージ時間はゼロ。


「墜ちろ」


 ズドォォォォォォンッ!!


 発砲音というよりは、雷鳴に近い轟音が峡谷に響き渡った。

 砲口から放たれたのは、赤黒いプラズマを纏った質量弾だ。

 それは空気を引き裂き、回避行動を取ろうとした敵機に直撃した。


 ガシャンッ……!!

 爆発すら起こらなかった。

 着弾した瞬間、敵機の上半身がごっそりと消滅し、残骸となって岩肌に激突したのだ。


『うわっ……マジかよ』


 カイルが素っ頓狂な声を上げる。


『一撃だぞ? しかも、あの距離で偏差射撃もなしに当てやがった』

「……まだよ。あと2匹」


 残った2機がパニックに陥ったように散開する。

 逃がさない。

 私はアヴェンジャーの翼を羽ばたかせ、急上昇した。

 推進剤プロペラントを燃やすアフターバーナーではない。

 機体全身から魔力を噴出し、物理法則を無視した機動で敵の頭上を取る。


(……お腹が空いたわね、アヴェンジャー)


 機体が『肯定』の震えを返す。

 私はレールキャノンを収め、マニピュレーターの爪を展開した。

 遠距離からの狙撃もいいけれど、今は温かい鉄の感触が欲しい。


「キェェェェェェッ!!」


 アヴェンジャーが怪鳥のような叫び声を上げ、逃げ惑うハウンドの背中に踊りかかった。


『ひ、ひぃぃッ! なんだこいつは!? バケモノか!?』


 無線傍受した敵パイロットの悲鳴が聞こえる。

 その声を聞いた瞬間、私の背筋にゾクゾクとした快感が走った。

 ああ、これが「狩り」なのね。


 私は躊躇なく、敵機のコクピットブロックへと爪を突き立てた。


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