第9話 氷上の防衛戦
警報が鳴り響いたのは、哨戒任務に出てからわずか十分後のことだった。
「――全機、戦闘態勢! 三時の方向、雲の中から熱源反応多数!」
オペレーターの悲鳴に近い報告。
吹雪の向こう側、白闇の中から無数の黒い影が躍り出た。
北方連合の爆撃艦隊だ。
ズズズンッ……!
重低音と共に、氷の大地が揺れる。
敵艦からの長距離砲撃が、採掘塔の周囲に着弾し、氷塊と黒い原油を空へと巻き上げた。
「迎撃しろ! 一機たりとも施設に近づけるな!」
ヴォルゴフ少佐の命令が飛ぶ。
私は愛機のスロットルを全開にし、凍りついた翼を無理やり羽ばたかせた。
「行くわよ」
私は喉の奥から『歌』を絞り出す。
極寒の冷気を震わせる共鳴波。
私の竜は狂ったように咆哮し、迎撃ミサイルのような速度で敵の編隊へと突っ込んだ。
視界はゼロに近い。頼れるのは魔力探知と、肌を刺す殺気だけ。
私はすれ違いざまに敵の護衛竜を三機、立て続けに撃ち抜いた。
凍結した装甲は脆い。魔弾を受けるとガラス細工のように砕け散る。
『す、すごい……! やっぱりエルゼ少尉は最強だ!』
無線からリクの興奮した声が聞こえた。
彼は私の後方、安全圏にいるはずだった。だが――。
「馬鹿! 前に出るなッ!」
私の制止は遅かった。
功を焦ったのか、あるいは私にいい所を見せようとしたのか。リクの機体が突出して、敵の爆撃艦の前へと躍り出てしまったのだ。
そこは、敵の対空砲火が最も濃い死の領域。
『え……?』
リクの情けない声。
直後、彼の機体は十字砲火を浴びた。
幸運にも直撃は免れたが、衝撃で体勢を崩し、氷原の上へと不時着気味に叩きつけられる。
「あ、足が……竜の足が動かない! 助けて、少尉! 助けてください!」
リクの悲鳴が無線を埋め尽くす。
彼は氷原の上で孤立した。
そして、その無防備な獲物を狙って、上空から敵の旗艦――重装甲の空中戦艦が、巨大な砲門を向けて降下してくるのが見えた。
助けに行けば、私も共倒れになる。
敵艦の主砲は、チャージを完了しつつあった。




