表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/168

第89話 歪な進化


 艦橋塔の地下深く。

 かつて戦艦の弾薬庫だった場所が、アヴェンジャーの新たなドックとなっていた。


 広大な空間には、ヴァルガスの号令で集められた「極上」のパーツが山積みされている。

 墜落した巡洋艦の装甲板、戦車用の複合エンジン、そして……。


「……おいおい、正気かよ」


 カイルが呆れた声を上げて見上げているのは、巨大な砲身だった。

 全長8メートル。旧式駆逐艦の主砲として使われていた、200mmレールキャノンだ。

 本来、全長15メートル程の竜騎兵ドラグーンが携帯できるサイズではない。


「重量バランスが滅茶苦茶だ。撃った瞬間に腕がもげるぞ」

「大丈夫よ。……この子が欲しがってる」


 私はアヴェンジャーの右腕――装甲が剥がれ、赤黒い筋繊維が剥き出しになったマニピュレーターを砲身に這わせた。


 ズズズ……ッ。

 粘液を帯びた繊維が、鉄の砲身に絡みつく。

 ボルトや溶接はいらない。

 アヴェンジャーの細胞が金属を侵食し、神経を接続し、自らの「肉体」の一部として取り込んでいくのだ。


「……見て、カイル。喜んでる」


 ドクン、ドクン!

 結合部から蒸気が噴き出し、砲身が生物のように脈動を始めた。

 重すぎるはずの鉄塊が、まるで発泡スチロールかのように軽々と持ち上げられる。

 魔力で強化された人工筋肉が、重量の概念をねじ伏せているのだ。


「……チッ。俺の知ってる機械工学エンジニアリングへの冒涜だな」


 カイルは悪態をつきながらも、手際よく補機類のセッティングを進めていた。

 彼はもう、この異常な光景を受け入れている。

 私が「化物」であるなら、彼はその生態を管理する「飼育員」に徹する覚悟を決めたようだ。


「弾薬はどうする? 通常の砲弾じゃ、この『腕』の出力に耐えられんぞ」

「いらないわ。……私の魔力を撃ち出す」


 私は右目を閉じた。

 右腕と直結した脳内に、新しい回路が開通する感覚。

 血管を流れる血液(燃料)を、圧縮し、加速し、いかずちとして放つイメージ。


 バチバチバチッ!!

 砲口から赤黒いスパークが迸り、周囲の空気が焦げ付いた。


「おい、試射はやめろよ! 地下ごと埋まる気か!」

「ふふ……冗談よ」


 私はリンクを解除した。

 心地よい疲労感と、満腹感。

 アヴェンジャーは、もはや帝國の規格品ではない。

 私の意思で進化し、私の魔力で敵を喰らう、世界に一機だけの「魔獣」へと生まれ変わりつつあった。


「……準備万端だな」


 カイルがモニターを覗き込む。


「ヴァルガスの情報網に引っかかった。

 街の北側、峡谷地帯に帝國の陸上戦艦が展開してる。

 ……俺たちを炙り出すための『大掃除』を始める気だ」


「陸上戦艦……。いい餌になりそう」


 私は歪な進化を遂げた右腕を撫でた。

 恐怖はなかった。

 あるのは、新しい「牙」を試したいという、純粋な闘争本能だけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ