第81話 鉄の晩餐
ガリッ、ゴリッ……。
静まり返った格納庫に、硬質な咀嚼音が響く。
「……よく食うな、こいつ」
カイルがドラム缶から廃材を放り込むたびに、アヴェンジャーの胸部装甲が展開し、赤黒い結晶が牙のように動いてそれを取り込んでいく。
ボルト、ナット、千切れた鉄板。
本来なら産業廃棄物でしかないそれらが、今のこの子にとっては極上の栄養源だ。
「……調子はどうだ、エルゼ」
「……うん。少し、体が軽くなった気がする」
私はアヴェンジャーの脚部に寄りかかりながら答えた。
不思議な感覚だった。
機体が鉄を噛み砕き、溶解して吸収するたびに、私の空腹感も満たされていく。
逆に、私が水を飲めば、機体の冷却水の温度が下がる。
生命リンク。
文字通り、私たちは一心同体になっていた。
「お姉ちゃん、カイルさん。……コーヒー淹れてきたよ」
リズがマグカップを載せたトレイを持って入ってきた。
彼女は、鉄を貪り食うアヴェンジャーを一瞬だけ凝視し、少しだけ顔を引きつらせたが、すぐに笑顔を作って私に向き直った。
「はい、ブラックでいいよね?」
「ありがとう、リズ」
カップを受け取る。
湯気から漂うコーヒーの香り。昔は大好きだったその香りが、今は「焦げた泥水」のようにしか感じられない。
けれど、私は息を止めて、それを一気に流し込んだ。
「……美味しい」
「よかった! あ、カイルさんにはお砂糖入れておきました」
「気が利くなぁ、リズちゃんは。どっかの愛想なしとは大違いだ」
カイルが軽口を叩きながらコーヒーを啜る。
その光景は、以前と変わらない穏やかな休憩時間のようだった。
……私たちの足元で、鉄の怪物がゲップのような蒸気を吐き出していなければ。
「さて……腹も満たしたところで、今後の方針だ」
カイルが空になったマグカップを置き、真剣な表情になった。
「ここはあくまで臨時の隠れ家だ。帝國軍がハウンド1のロストに気づけば、次は艦隊規模で包囲網を敷いてくるぞ」
「逃げるしかないわね。……どこへ?」
カイルは懐から、古い羊皮紙の地図を取り出した。
彼が指差したのは、東の果て。帝國の支配領域と、未開の荒野の境界線にある場所。
「『自由都市バルデ』。……ここなら、帝國の目も届きにくいし、闇医者や裏の整備工も腐るほどいる」
「バルデ……。噂に聞く『屑鉄の街』ね」
犯罪者、脱走兵、そして行き場を失った者たちが集まる吹き溜まり。
今の私たちには、お似合いの場所かもしれない。
「よし、決まりだ。夜明けと共に発つぞ。……アヴェンジャーの『食後の運動』にはちょうどいい距離だろ」
アヴェンジャーが、同意するようにドクンと鼓動を鳴らした。




