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第74話 狩人の足音



 ザァァァ……。

 灰色の雨が、赤黒い結晶の森を濡らしていた。

 視界は最悪だ。

 巨大な剣山のような結晶が林立し、その隙間を縫うように、私たちはアヴェンジャーを潜ませていた。


「……来る」


 私は操縦桿から手を離さず、呟いた。

 モニターには何も映っていない。カイルの目にも、まだ何も見えていないはずだ。

 けれど、私の右腕が教えてくれる。


 ズキン、ズキン。

 鱗に覆われた右腕が、敵の接近に合わせて不快なリズムを刻む。

 まるで、同じ「竜の血」を引く同族が近くにいることを、本能が警告しているようだった。


『……方向は?』

「3時方向。……高度は低い。結晶の影を舐めるように飛んでる」


 カイルが息を呑む気配がした。

 直後。


 ジュッ――!!

 数十メートル先の巨大な結晶柱が、音もなく斜めに切断された。

 断面が赤熱し、遅れてドォンという崩落音が響く。


『見えねえ位置から撃ってきやがった……! 適当に撃って炙り出す気か』

「遊んでるのよ。……私たちが恐怖で飛び出してくるのを待ってる」


 ハウンド1の性格なら、確実に仕留めるためにじわじわと追い詰めるはずだ。

 私はアヴェンジャーの出力を限界まで絞った(アイドル状態)。

 エンジンの排熱を抑え、岩塊に同化する。


(こっちの翼はボロボロ。まともに空戦ドッグファイトをしたら、万全なニーズヘッグには勝てない)


 勝機があるとすれば、地上だ。

 この複雑に入り組んだ結晶の迷路なら、可変翼機の機動力も半減する。


『エルゼ、奴さん近づいてくるぞ。……どうする?』

「待つわ」


 私は脂汗を拭った。

 右腕の痛みが、もはや激痛を超えて「殺意」へと変わっていく。

 あいつを殺したい。噛み砕きたい。引き裂きたい。

 そんな凶暴な衝動が、脳裏を支配しそうになる。


(落ち着け……まだだ。まだ早い)


 キィィィィン……。

 独特のタービン音が近づいてくる。

 雨の向こうから、漆黒の影がぬらりと現れた。

 『ニーズヘッグ』だ。

 翼を半畳みにし、低空を滑るように飛行している。


 距離、300。

 奴の機首が、左右に振られる。

 獲物を探す、猟犬の鼻の動きだ。


『……見つかるぞ』

「……いいえ。こっちが見つけるの」


 私はアヴェンジャーのシステムに、ある命令をセットした。

 魔導炉の安全装置リミッター解除。

 そして、全エネルギーの右腕への集中。


 ドクンッ!!

 機体が、獲物を前にした獣のように身震いした。


 距離、150。

 ニーズヘッグのカメラアイが、私たちが隠れる岩陰の方を向いた。


『――そこかァッ!?』


 ハウンド1の絶叫と共に、紫色の閃光が放たれる。

 その瞬間、私は叫んだ。


「今だッ!!」


 防御ではない。回避でもない。

 私はスロットルを叩き折りかねない勢いで全開にした。

 アヴェンジャーが、岩陰から爆発的な加速で飛び出す。

 狙うは空ではない。

 敵の懐(ゼロ距離)だ。


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