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第71話 血塗られた盾



 思考よりも先に、体が動いていた。


「させるかぁぁぁッ!!」


 私は操縦桿を強引に引き倒し、襲いかかる重力(G)をねじ伏せて機首を急降下させた。

 狙いは、地上の輸送機『ヘヴィ・ワン』へ降り注ぐ爆撃の雨。


『おいエルゼ! 間に合わねえ! 射線に入ったらこっちが蒸発するぞ!』


 カイルの警告を無視する。

 間に合わせるんじゃない。割り込むんだ。


 ドクンッ!!

 右腕が激しく脈打つ。

 私の殺気に呼応して、アヴェンジャーの魔導炉が臨界点を超えた咆哮を上げた。

 背中のスラスターから、青ではなく、赤黒い炎が噴き出す。


 ――ズドンッ!!


 音速を超えて大気を突き破り、私は爆炎と輸送機の間に機体を滑り込ませた。


「展開ッ!!」


 私は右腕をコンソールに叩きつけた。

 物理的な盾などない。

 私の体と機体を媒介に、純粋な魔力を空間に固定する。


 バチバチバチッ!!

 アヴェンジャーの前方に、赤黒い幾何学模様――「竜の鱗」を模した多重障壁が出現した。


 直後、数発のミサイルと徹甲榴弾の豪雨が、私たちを飲み込んだ。


 ドォォォォォン!!


 視界が真っ白に染まる。

 鼓膜が破れそうな轟音。

 障壁が軋み、衝撃がダイレクトに神経を逆撫でする。


『ぐああぁぁッ!!』

「うぐぅぅぅッ!!」


 機体が焼ける匂いではない。私の右腕が内側から焼ける匂いがする。

 それでも、引かない。ここで引けば、背後のリズが死ぬ。


(耐えろ……耐えてくれ、私の体……!)


 右腕の皮膚が裂け、鮮血がコンソールに滴る。

 それでも私は魔力を注ぎ続けた。

 機体と私が溶け合い、一つの「盾」となって炎を受け止める。


 やがて、爆風が晴れた。


 黒煙の中から現れたアヴェンジャーの姿に、戦場が一瞬、静まり返った。

 魔力障壁は砕け散り、機体から煙が上がっている。

 だが、機体は墜ちていない。

 そして何より――背後の輸送機は、無傷だった。


『……嘘だろ。爆撃隊の斉射を、真正面から弾きやがった』


 カイルが乾いた声で呟く。


 地上の輸送機から、リズの顔が窓越しに見えた。

 泣いている。

 傷だらけのアヴェンジャーを見上げて、必死に何かを叫んでいる。


「……行きなさい!」


 私は外部スピーカーを開いて叫んだ。


「早く飛んで! ここは私が食い止める!」


 輸送機のパイロットが我に返り、エンジンを始動させる。

 ヘヴィ・ワンが重々しく浮上し、戦場からの離脱を開始した。


『ハハッ……ハハハハハッ!!』


 空から狂ったような笑い声が聞こえた。

 ハウンド1だ。

 黒煙を突き破り、漆黒の可変翼機『ニーズヘッグ』が急降下してくる。


『最高だ、エルゼ! その力、その執念! まさに竜だ!

 妹を守るために人間を辞めたか! 美しい姉妹愛だなぁ!』


 すれ違いざま、ニーズヘッグの機首から紫色の光が迸る。

 レーザーだ。

 かつて私たちを苦しめた、高出力の光学兵器がアヴェンジャーの装甲を灼く。


 ジュッ、ジュワァァッ!


『ぐぅッ! チクショウ、シールドがねえから直撃だ!』


 カイルが悲鳴を上げるが、私は歯を食いしばって耐えた。


『だが、その体でいつまで持つかな? お前の命が尽きるのが先か、機体が溶けるのが先か……試してやるよ!』


 私は血の味がする口元を拭い、操縦桿を握り直した。

 輸送機が逃げるまでの時間を稼ぐ。

 それが、化け物に成り果てた私の、最後の人間らしい仕事だ。


「カイル、舌を噛まないで」

『……へいへい。地獄の底まで付き合うぜ、相棒』


 アヴェンジャーが赤黒いカメラアイを光らせ、再び空へと舞い上がった。


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