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第69話 鉄の鼓動



 修理を終えたアヴェンジャーのコクピットに、再び私が座る。

 シートの感触は変わらない。けれど、背中を預けた瞬間、ゾクリとした寒気が走った。


「……始めるわよ」


 私は深呼吸をし、浸食された右腕をコンソールの接続端子へと伸ばした。

 いつもなら、針が神経に突き刺さるような鋭い痛みが走るはずだ。

 私は痛みに耐えるために奥歯を噛み締めた。


 ズブッ。


「……え?」


 痛みはなかった。

 代わりに感じたのは、温かい泥の中に腕を沈めるような、不気味な「親和感」だった。

 右腕の血管が、機体のケーブルと直接繋がったかのような錯覚。

 ドクン、と機体の奥から鼓動が伝わってくる。


『――おい、どうした? 電圧ボルトが不安定だぞ』


 後席のカイルが声を上げる。


『アイドリング回転数が勝手に上がってる。……なんだこの音? エンジンの音じゃねえぞ』


 ブォン……ブォン……。

 魔導炉の駆動音が、まるで巨大な獣の呼吸音のように低く、重くなっている。

 計器の針が、レッドゾーンと通常域を行ったり来たりしている。


「……私の魔力を、吸ってる」


 私は戦慄した。

 操作していないのに、機体が勝手に私の右腕から魔力を汲み上げ、燃料に変えているのだ。

 まるで、飢えた赤ん坊が母親に乳をねだるように。


「ハァ……ハァ……」


 体力をゴリゴリと削られる感覚。

 けれど、それに呼応して機体の反応速度レスポンスは異常なほど向上している。

 指先を僅かに動かしただけで、フラップが神経質に反応する。


「……カイル。この機体、もう『機械』じゃないかも」

『……笑えねえ冗談だな。だが、今はその化物に頼るしかねえ』


 カイルはため息をつきつつも、FCS(火器管制)の調整を続けている。


          *


 その頃。

 『竜の墓場』の上空、分厚い黒雲の上。


 一機の漆黒の可変翼機――『ニーズヘッグ』が、鷹のように旋回していた。


『――ハウンド1より本部。レーダーは完全に死んでる。磁気嵐が酷くて、電子的な索敵は不可能だ』


 コクピットのハウンド1は、退屈そうに通信機に向かって呟いた。

 本部からの苛立った返答が届く。


『目視で探せ。奴らは必ずそのエリアに潜んでいる』

『へいへい。人使いが荒いこった』


 彼は通信を切ると、ガムを噛むように口元を歪めた。

 そして、目を閉じ、鼻から深く息を吸い込んだ。


 硝煙。オゾンの匂い。雨の匂い。

 その奥に混じる、甘く、腐ったような、同族の匂い。


「……ん?」


 ハウンド1がカッと目を見開いた。

 強烈な「波」を感じたのだ。

 電子機器には映らない、けれど彼ら「人造の竜」だけが感じる共鳴波動。


「……ハハッ、見つけた」


 彼は狂喜の笑みを浮かべ、操縦桿を倒した。


「隠れん坊は終わりだ、エルゼ。……随分と濃厚なフェロモンを撒き散らしてやがる」


 あの修理の際、エルゼが放った膨大な竜の魔力。

 それが狼煙のろしとなって、最悪の追跡者を呼び寄せてしまったのだ。


「全機、俺に続け! 狩りの時間だ!」


 ニーズヘッグが翼を折りたたみ、黒雲の海へとダイブする。

 それに続き、数十機の帝國軍竜騎兵が、雨あられと降り注いだ。


 墓場の静寂が、破られようとしていた。


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