第68話 悪魔の修理
簡易テントの中に、怒声と嘆きが響いていた。
「無理だ! こんなモン、直せるわけがねえ!」
レジスタンスの整備班長が、アヴェンジャーの無惨な姿を前に帽子を地面に叩きつけた。
全身の装甲はひしゃげ、右翼のフラップは脱落寸前。何より、着陸の衝撃で金属爪の油圧系が完全に死んでいる。
「帝國の最新鋭機だぞ? パーツなんて一つもねえ。ネジの規格すら違うんだ。……諦めろ、こいつはもうただの棺桶だ」
班長の言葉に、周囲の空気が重くなる。
カイルが舌打ちをし、リズが不安そうに私の服の裾を握る。
「……パーツがないなら、作ればいい」
「あぁん? 寝言は寝て言え。鉄を溶かす炉も、型もねえんだぞ」
私は無言で、足元に落ちていた「赤い結晶」の破片を拾い上げた。
この「竜の墓場」を埋め尽くす、竜の血の結晶。
拾った瞬間、右腕がドクンと脈打ち、結晶がそれに共鳴して怪しく発光した。
(……やっぱり。使える)
私は確信した。
この右腕は、ただの病気じゃない。アヴェンジャーと同じ「竜の力」を御するためのインターフェースだ。
「どいてて。……私がやる」
私は整備兵たちを手で制し、アヴェンジャーの傷ついた右翼の前に立った。
結晶を装甲の亀裂に押し当て、その上から右手を重ねる。
「お姉ちゃん……?」
私は右腕に意識を集中させた。
血管の中を、ドロドロとした熱い泥が流れるような感覚。
人の形を保とうとする理性を、自らねじ伏せる。
「……っ、ぐうぅぅッ!!」
ボォッ!!
右腕から赤黒い瘴気が噴き出した。
同時に、押し当てた結晶が溶け出し、アヴェンジャーの装甲と混ざり合う。
ジュウウウゥゥ……!
肉が焼けるような音。
硬い特殊合金が、まるで粘土のようにぐにゃりと歪み、傷口を塞いでいく。
「な……なんだありゃ……!?」
「鉄が……生きてるみたいに……」
整備兵たちが悲鳴に近い声を上げる。
それは「修理」ではない。「再生」だった。
私の生命力を触媒にして、機体と結晶を融合させているのだ。
右翼、着陸脚、そして装甲。
私は次々と傷を撫で、塞いでいく。
その代償として、右腕の激痛は二の腕を越え、肩口まで這い上がってくる。
――ガキンッ。
最後に歪んだフレームを無理やり接合し、私はその場に膝をついた。
「ハァ……ハァ……」
アヴェンジャーの傷は消えていた。
ただし、補修箇所は赤黒い血管のような模様が浮き出ており、以前よりも禍々しい姿に変貌している。
「……直ったわ」
私は荒い息を吐きながら、右腕をさすった。
袖をまくるまでもない。
かつて白かった肌は、今は肩までどす黒い鱗に覆われているのが分かった。
「お姉ちゃん……!」
リズが駆け寄ろうとするが、私はそれを目で制した。
こんな「化け物」の手で触れたら、彼女まで汚染してしまいそうで怖かった。
「……便利でしょ、この腕」
私は引きつった笑みを浮かべ、整備班長の方を向いた。
「怪物の翼は、人間の手じゃ直せない。……なら、怪物が直すしかないでしょ」
班長は青ざめた顔で、何も言えずに立ち尽くしていた。
カイルだけが、複雑そうな顔でアヴェンジャーを見上げていた。
私の体も、この機体も、もう後戻りはできない。
鉄の竜に喰われるのが先か、帝國を焼き払うのが先か。




