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第67話 竜の墓場



 南西へ向かうにつれ、空の色がどす黒く変わっていった。

 計器盤のコンパスは、狂った独楽のように回転し続けている。


『……ひでえ磁気嵐だ。ここら一帯の岩盤そのものが、巨大な磁石になってるみたいだな』


 カイルがノイズ混じりのインカムでぼやく。

 ナビゲーションは死んだ。頼れるのは目視だけだ。


「抜けるわよ」


 私は操縦桿を握り直し、分厚い黒雲の壁へと機体を突っ込ませた。

 バチバチッ!

 機体表面を赤紫色の放電現象(セントエルモの火)が走り、視界が白濁する。


 数秒の緊張の後、私たちは嵐の壁を突き抜けた。

 その瞬間、眼下に広がった光景に、私は息を呑んだ。


「……これが」

『へえ、こりゃまた……派手な墓標だこと』


 直径数十キロにも及ぶ巨大なクレーター。

 その大地を埋め尽くしていたのは、無数の「槍」だった。

 

 地面から突き出した、赤黒く鋭利な巨大結晶の群れ。

 かつてここで死んだ竜たちの血が大地に染み込み、数百年をかけて結晶化したものだという。

 夕闇の中で鈍く光るその光景は、美しいというよりは、禍々しく、静謐だった。


「……あそこ!」


 私は結晶の森の奥深く、巨大な岩陰に隠れるように停泊している機影を見つけた。

 ずんぐりとした輸送機『ヘヴィ・ワン』だ。

 周囲の結晶が天然のジャミング装置となり、敵の索敵から彼らを守っているのだ。


『ビンゴだ! 生きてやがった!』

「着陸するわ!」


 私は着陸脚ギアを下ろし、輸送機の近くにあるわずかな開けた場所へとアプローチを開始した。

 周囲は鋭利な結晶だらけだ。少しでも接触すれば、装甲ごと切り裂かれる。


 慎重に。優しく。


 ガガガッ……。

 金属爪が硬質な地面を掴み、機体が揺れる。

 完全に停止すると同時に、魔導炉をカットした。


 プシュウゥゥ……。

 排気音が消え、結晶の森に静寂が戻る。


「……リズ」


 私はシートベルトを乱暴に外し、キャノピーを跳ね上げた。

 タラップを駆け下りる。

 鉄錆のような、独特の磁気の匂いが鼻をつく。


「お姉ちゃん!!」


 輸送機のハッチから、小さな影が飛び出してきた。

 リズだ。

 包帯姿で、少し痩せてしまったけれど、確かに私の妹だ。


「リズッ!」


 私は駆け寄ってくる彼女を、泥だらけの体で力一杯抱きしめた。

 温かい。心臓の音がする。

 生きている。

 その事実だけで、張り詰めていた緊張の糸が切れ、涙が溢れて止まらなかった。


「よかった……本当によかった……」

「お姉ちゃんこそ……! 死んじゃったかと思った……うあぁぁん!」


 私の胸で泣きじゃくる妹。

 その背後から、カイルがゆっくりと歩いてきた。

 彼は義足を鳴らしながら、私たちを見守るレジスタンスの兵士たちに片手を上げた。


「よォ。地獄からの帰還だ。……歓迎してくれるんだろ?」


 兵士たちから歓声が上がる。

 赤黒い結晶の墓標の下で、私たちはようやく、本当の意味での再会を果たした。


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