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第66話 賞金首の価値



 ドク、ドク、ドク……。

 太いホースを通って、アヴェンジャーのタンクに燃料が注ぎ込まれていく。

 それはまるで、死にかけていた猛獣に輸血をしているような光景だった。


「……上等なモン持ってるじゃねえか。軍用規格ミルスペックの精製燃料だろ、これ」


 カイルがドラム缶のラベルを確認して口笛を吹く。

 脅されたジャンク屋のリーダーは、腫れ上がった顔で震えながら答えた。


「て、帝國軍の補給部隊から……その、横流ししてもらったヤツだ。一番いいヤツなんだよ」

「へぇ、泥棒家業も楽じゃねえな」


 カイルはニヤリと笑い、男の胸倉を掴んで引き寄せた。


「で? その帝國軍様は、今どこで何を騒いでる? まさかピクニックってわけじゃねえだろ」

「し、知らないのか!? 今、全回線で『手配書』が回ってるんだ!」


 男は懐から携帯端末を取り出し、震える手で操作してホログラムを投影した。

 空中に浮かび上がったのは、不鮮明ながらも確かに私の顔写真と、アヴェンジャーの機影だった。


『――最重要指名手配。生け捕り、もしくは部位パーツの回収に成功した者には、国家予算並みの報奨金を約束する』


 画面の下に表示された金額を見て、私は思わず眉をひそめた。

 ゼロの数が多すぎて、一瞬で桁が数えられない。


「わお。俺たち、空飛ぶ国家予算になっちまったみたいだぜ」

「……笑えないわね。私の体はそんなに高いの?」

市場価値マーケットプライスとしちゃ最高額だろ。……おかげで、世界中の賞金稼ぎや軍隊がお前を探して血眼になってるってわけだ」


 カイルは笑っているが、その目は笑っていなかった。

 帝國は本気だ。

 私という「部品」を回収するためなら、この廃墟ごと焼き払うことも厭わないだろう。


「……なぁ、あんた」


 リーダーの男が、少しだけ欲の混じった目つきで私を見た。

 この状況でまだ、金への執着を捨てきれないらしい。


「ここから一番近い帝國軍の駐屯地は、北へ百キロだ。……密告すれば、俺たちは一生遊んで暮らせる」

「そうね。でも、その前に貴方は死ぬわ」


 私は冷たく言い放ち、サブマシンガンの銃口を彼の眉間に突きつけた。

 男は「ひぃっ!」と悲鳴を上げ、ガタガタと震え上がった。


「冗談よ。……情報の対価は払うわ」


 私は端末を奪い取り、通信ログを素早くスクロールさせた。

 帝國軍の通信網ネットワークだけでなく、裏社会の周波数帯も拾っている。

 そこにある暗号通信の一つに、目が止まった。


『――こちらは渡り鳥。嵐を避けて、"竜の墓場"にて羽を休める』


 極めて短い、ノイズ混じりの定時連絡。

 帝國軍なら見逃すような些細な信号だ。

 だが、私には分かった。

 "渡り鳥"。レジスタンスが使う、輸送機の隠語だ。


「カイル、見つけた」

「ん?」

「リズたちが生きてる。……"竜の墓場"にいるわ」


 カイルが端末を覗き込み、ニヤリと笑った。


「"竜の墓場"か。……ここから南西の山岳地帯にある、巨大なクレーター跡地だな。磁場が狂っててレーダーが効かない、天然の要塞だ」

「合流するわよ」


 給油ポンプがゴボッと音を立てて空気を吸った。

 満タンだ。


「へいへい。……あばよ、おっさんたち。燃料代は、帝國軍に請求してくれ」


 カイルはリーダーの男にウインクし、アヴェンジャーの翼へと飛び乗った。

 私も続く。

 男たちは呆然と見送るしかなかった。


 魔導炉が唸りを上げ、アヴェンジャーがゆっくりと浮上する。

 燃料は満タン。目的地は明確。

 私たちは雨上がりの空へ向けて、一気に加速した。


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