第65話 廃墟のハイエナ
不快な金属音で目が覚めた。
ガガガガッ……!
何か硬いもので、アヴェンジャーの装甲をこじ開けようとする音だ。
「……ん」
私が重い瞼を持ち上げると、隣で寝ていたはずのカイルが、既にアサルトライフルを構えて物陰に潜んでいるのが見えた。
彼は口元に指を当て、「静かに」という合図を送ってくる。
高架下には、いつの間にか数台の作業用車両――錆びついたピックアップトラックや、武装化された二足歩行の作業機が集まっていた。
その周りには、薄汚れた作業着に銃器をぶら下げた男たちが十数人。
廃墟を漁るジャンク屋だ。
「おい見ろよ、こいつは上玉だぜ!」
「帝國軍の新型か? 装甲板一枚で、俺たちの半年分の稼ぎになるぞ!」
リーダー格らしい男が、バーナー片手にアヴェンジャーの脚部を撫で回している。
その汚い手が、私の「翼」に触れているのを見た瞬間、寝起きの頭が一気に沸騰した。
「……触らないで」
私は隠れることもなく、瓦礫の陰から姿を現した。
「あぁん?」
男たちが一斉に振り返る。
ボロボロのパイロットスーツを着た小娘一人。彼らは顔を見合わせ、下卑た笑い声を上げた。
「なんだ、持ち主か? 生きてたとはな」
「悪いが嬢ちゃん、ここは俺たちの庭でな。落ちてるゴミは俺たちのモンなんだよ」
リーダーの男がニヤニヤしながら、バーナーの火先をこちらに向けてくる。
「命が惜しかったら着てるモン全部置いて失せな。……パイロットスーツも、中身も高く売れそうだ」
男たちの目が欲望で濁る。
私はため息をつき、隠し持っていたサブマシンガンのセーフティを外した。
「……ゴミ? 誰に向かって口を利いているの」
その時。
私の殺気より早く、乾いた銃声が響いた。
パンッ!
「あぐっ!?」
リーダーの男が持っていたバーナーの燃料タンクが撃ち抜かれ、小爆発を起こした。
男は悲鳴を上げて転げ回る。
「て、敵襲ッ!?」
「どこからだ!?」
動揺するハイエナたち。
カイルが高架の鉄骨の上から、ひょっこりと顔を出した。
「よう、朝から精が出るな。だが、そいつは俺の大事な商売道具でね。傷一つ付けたら、その安っぽい作業機ごとスクラップにするぞ?」
カイルは笑顔だが、その銃口は正確に次の獲物を狙っている。
男たちが慌てて銃を構えようとするが、私は地面を蹴って距離を詰めていた。
「遅いッ!」
ダダッ!
私は走りながら一番近くにいた男の足元へ威嚇射撃を行い、怯んだ隙に鳩尾へ蹴りを叩き込んだ。
ドガッ!
男がくの字に折れて吹き飛ぶ。
「こ、こいつら軍人だ! やっちまえ!」
作業機に乗った男が、巨大な解体用のアームを振り上げる。
鈍重な動きだ。空の敵に比べれば、止まっているも同然。
「邪魔よ!」
私は右腕――感覚のない、竜の鱗に覆われた腕で、振り下ろされたアームを真正面から受け止めた。
ガギィィンッ!!
人間なら骨が砕ける衝撃。だが、私の「腕」は微動だにしない。
そのままアームを掴み、魔力を流し込む。
「……消えろ」
ドォォォン!!
掌から放たれた衝撃波が、作業機のコクピットを直撃した。
バランスを崩した作業機は、派手な音を立てて後ろへひっくり返った。
静寂。
リーダーが黒焦げになり、一番の戦力だった作業機が秒殺された。
残ったハイエナたちは、顔を青くして後ずさりする。
「……け、怪我人はいないかー? 俺たちは平和主義者なんだ」
カイルが鉄骨から飛び降り、スタッと着地した。
左脚の義足が、ジャリリと瓦礫を踏みしめる。
「さて、交渉といこうか。……俺たちは燃料に飢えてるんだ。最高級の航空燃料、持ってるよな?」
カイルは悪魔のような笑顔で、倒れたリーダーの頭を義足の爪先でグリグリと踏みつけた。
「だ、出します! 全部置いていきますから、命だけは……!」
「交渉成立だ。……おいエルゼ、給油口を開けてやれ。満タンにしてくれるそうだ」
私は呆れたように肩をすくめ、アヴェンジャーの給油ハッチを叩いた。
どうやら、燃料の問題は解決しそうだ。




