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第63話 雨の廃墟



 雨がキャノピーを叩く音が、激しさを増していた。

 雲の下は、薄暗い灰色に包まれた荒野だった。


『……おい、マズいぞ。燃料計の針がエンプティを叩いてる』


 カイルがコンソールを叩きながら言った。


『このままだと、あと五分で俺たちは「鉄の塊」になって墜ちる。……着陸場所を探せ』

「簡単に言うわね。この辺りは旧市街の瓦礫だらけよ。滑走路なんてどこにもないわ」


 私は目を凝らして地表を探った。

 かつての文明の残骸。崩れかけたビル群。錆びついた鉄塔。

 とても航空機が降りられる場所ではない。


『――あそこだ! 2時方向!』


 カイルが指差した先。

 瓦礫の山の隙間に、不自然に長く伸びる平坦なラインが見えた。

 崩落を免れた、かつての高速道路の高架だ。


「……あんな細い道に降りろって言うの?」

『贅沢言うなよ。墜落するよりマシだろ? ……それとも、もっと広い「あの世」の滑走路に行きたいか?』

「……減らず口を」


 私は覚悟を決めて、スロットルを絞った。

 着陸脚ギアを下ろす。

 金属爪クローが展開する重い音が響く。


「降りるわよ。舌を噛んでも知らないから」


 機体をバンクさせ、高架線へとアプローチする。

 幅はギリギリ。少しでも軸がズレれば、高架から転落して真っ逆さまだ。


 ガガガガガッ!!

 金属爪がアスファルトを削り、激しい火花を散らす。

 機体が暴れ馬のように跳ねる。


「止まって……ッ!!」


 私はエアブレーキを全開にし、逆噴射をかけた。

 キーーーーッ!!

 耳をつんざく摩擦音と共に、アヴェンジャーは高架の継ぎ目ギリギリで停止した。


 プスン……。

 同時に、魔導炉が咳き込むような音を立てて停止した。

 完全な燃料切れだ。


「……ハァ、ハァ……」


 コクピットに静寂が戻る。

 聞こえるのは、雨音と、熱を持った機体が冷える「カン、カン」という金属音だけ。


『……生きてるな』

「ええ。……なんとかね」


 私たちは顔を見合わせ、泥のようにシートに沈み込んだ。

 生き延びた。

 けれど、ここは敵地のど真ん中。燃料はなく、機体はボロボロ。

 そして何より――リズはもう、隣にはいない。


『……輸送機は、逃げ切れたかな』


 カイルがぽつりと呟いた。


「逃げたわ。……あの子は運が強いもの」


 自分に言い聞かせるように言う。

 今は、そう信じるしかない。


 私はキャノピーを開けた。

 冷たい雨が火照った頬を濡らす。

 硝煙と、雨と、錆の匂い。


 ここからどう動くか。

 雨の廃墟の中で、私たちの本当のサバイバルが始まろうとしていた。


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