第60話 鋼鉄の再会
研究員たちが逃げ惑う中、研究室の防弾ガラスが粉々に砕け散った。
ガシャンッ!!
硝子の雨と共に飛び込んできたのは、煤とオイルにまみれた男だった。
左脚の義足をガシャンと鳴らし、硝子片を踏みしめて歩み寄ってくる。
「……よォ。待たせたな」
カイルは片手に奪ったアサルトライフル、もう片方の手で、ボサボサの髪を掻きながら笑った。
「遅い……! 寄り道にしては長すぎるわよ」
「悪かったな。道案内がなくて迷ったんだよ」
カイルは私の拘束具に向けて、躊躇なく引き金を引いた。
ババンッ!
精密射撃。私の肌を傷つけることなく、ロック機構だけが破壊される。
自由になった体で、私はストレッチャーから転がり落ちるように降りた。
「立てるか?」
「ええ。……でも、右腕が動かない」
「操縦桿さえ握れりゃいい。行くぞ、アヴェンジャーが待ってる」
私たちは廊下へと走り出した。
カイルの左脚――鋼鉄の義足が、床を蹴るたびに重い駆動音を響かせる。
その歪なリズムが、今の私にはどんな音楽よりも頼もしく聞こえた。
*
艦内は混乱の極みにあった。
カイルが来る途中で動力パイプをいくつか破壊したらしく、照明は落ち、非常灯の赤い光だけが明滅している。
「こっちだ! 第1格納庫にデカい反応がある!」
曲がり角から飛び出してきた警備兵を、カイルが走りながら撃ち抜く。
私も落ちていたサブマシンガンを拾い、左手だけで応戦する。
痛みで意識が飛びそうになるのを、アドレナリンで無理やり繋ぎ止める。
「見えたぞ! あそこだ!」
巨大な隔壁の向こう。吹き抜けの格納庫。
そこに、あの銀色の翼はあった。
数本のクレーンアームに固定され、解析機器に繋がれた『アヴェンジャー』。
その姿は、磔にされた罪人のようであり、同時に、解き放たれるのを待つ猛獣のようでもあった。
「……よかった。まだバラされてない」
「ハウンドの野郎が『自分用に調整しろ』って命令したおかげで、解体を免れたみたいだな。皮肉なもんだ」
カイルがニヤリと笑う。
周囲には、整備兵や研究員たちがいるが、私たちの姿を見て腰を抜かしている。
「どけェッ! その席は俺たちの特等席だ!」
カイルが威嚇射撃をすると、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
私たちはタラップを駆け上がり、コクピットへと飛び込む。
慣れ親しんだ狭い空間。
シートの感触。匂い。
「……帰ってきた」
私は前席に座り、動かない右腕を無理やり持ち上げて、コンソールの端子に叩き込んだ。
ズプッ。
激痛が走るが、今度は不快ではない。
機体の鼓動が、ドクンと私の心臓に流れ込んでくる。
『――システム起動。おかえり、相棒』
カイルの声がインカムから響く。
同時に、魔導炉が唸りを上げ、クレーンアームを引きちぎるほどのパワーが機体に満ちた。
「アヴェンジャー、覚醒。……さあ、ここからが本番よ」
キャノピー越しに見えるのは、閉ざされた発艦ゲート。
その向こうには、私たちを捕らえた帝國の大空が広がっているはずだ。
「カイル、準備は?」
『いつでもいいぜ! このデカブツの中から、食い破って外に出てやろうぜ!』
私はスロットルに手をかけた。
反逆の狼煙を上げる時だ。




