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第59話 片脚の狼



 帝國軍戦略母艦『ナグルファル』、D区画・独房エリア。

 黴臭いコンクリートの床に、血反吐が散らばっていた。


「ハァ……ハァ……」


 カイル大尉は、天井から吊り下げられた鎖に両腕を繋がれ、ボロ雑巾のように揺れていた。

 全身に殴打の痕。

 そして、彼の左脚のズボンは膝から下が空虚に垂れ下がっている。

 尋問の際、彼の歩行機能を奪うために、愛用の「義足」は取り上げられ、部屋の隅に放り捨てられていた。


「……おい、起きろ。休憩時間は終わりだ」


 尋問官が冷水を浴びせる。

 カイルはビクリと身を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。


「レジスタンスの逃走ルートを吐け。……そうすれば、その鉄屑あしを返してやる」

「……へっ、耳が遠くてな。もっと近くで言ってくれよ」


 カイルが挑発的に笑うと、尋問官は苛立ちを露わにして警棒を振り上げた。

 不用意に間合いに入った、その瞬間。


「――今だ」


 カイルは全身の筋肉をバネのように収縮させ、鎖に繋がれた体を大きく振った。

 狙うのは尋問官ではない。

 その背後――部屋の隅に転がっている『義足』だ。


 ブンッ!!

 残された右脚が、床の義足をサッカーボールのように蹴り上げた。

 鋼鉄製の義足が、弾丸のような速度で宙を舞う。


「あ?」


 尋問官が振り返った瞬間、数キログラムある鉄の塊が、その顔面に直撃した。


 ゴシャァッ!!

 骨の砕ける鈍い音。尋問官は悲鳴を上げる間もなく、白目を剥いて吹き飛んだ。


「……ナイスシュート」


 カイルは肩で息をしながら、気絶した尋問官の腰にある鍵束を、残った右足の指で器用に引き寄せた。

 手錠を解錠し、床に着地する。

 片足立ちでバランスを取りながら、彼は転がった義足を拾い上げた。


 カチャリ。

 慣れた手つきで左脚に装着し、数回、床を踏みしめる。

 オイルの焼ける匂いと、金属の感触。

 これがないと、地べたも歩けないし、ラダーペダルも踏めない。


「……さて、行くか」


 彼は尋問官から奪った拳銃を腰に挿し、歩き出した。

 コツ、コツ、と硬質な足音が廊下に響く。

 向かう先は出口ではない。艦の最深部だ。


          *


 一方、特別保管室。

 私はストレッチャーに固定され、手術室へと運ばれていた。

 周囲の研究員たちが「摘出」の準備を進める中、突如として艦内に警報が鳴り響いた。


『――緊急通達! D区画にて捕虜が脱走!』

『警備兵一名死亡! 犯人は左脚に特徴あり!』


「……カイル」


 その特徴に、私は思わず笑みをこぼした。

 義足を奪われてもなお、暴れ回るなんて。


『――あー、テステス。……聞こえてるか、エルゼ?』


 艦内放送のスピーカーから、ノイズ混じりの声が響いた。


『悪いな、少し遅刻した。……義足あしの調子が悪くてな。だが、今から迎えに行く』


 ドォォォォォン!!

 遠くで爆発音。

 彼は兵器庫を襲撃し、派手に暴れ回っているようだ。


『ハウンドだか何だか知らねえが、俺の相棒を勝手に部品扱いしてんじゃねえぞ!』


 放送越しに聞こえる怒号。

 片脚の狼が、牙を剥いて迫ってくる。

 その事実は、絶望に沈んでいた私に、再び戦うための熱を与えてくれた。


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