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第56話 乱戦の空



 正面から迫る無数の光弾。

 私はそれを避けるのではなく、弾幕の隙間にある「針の穴」のような安全地帯へ向かって、アクセルを踏み込んだ。


『おいおいおい! 突っ込む気か!? 自殺志願もそこまで行くと芸術だぞ!』

「黙ってて! 離れたらハチの巣にされるわ!」


 距離五〇〇〇。三〇〇〇。一〇〇〇。

 敵の軽竜騎兵ドラグーンの編隊が、壁のように迫る。


「……今ッ!」


 私は機体を九〇度横転させ、敵編隊のど真ん中へと滑り込んだ。

 シュォォォッ!!

 すれ違いざま、敵機の風防ガラス越しにパイロットの驚愕した顔が見えるほどの至近距離。


『うわぁぁっ!? 近い近い! ぶつかるッ!』

「撃て、カイル! ここなら外さないでしょ!」

『畜生! やってやらぁ!』


 カイルがトリガーを引く。

 ロックオンなしの目視射撃。だが、この距離なら外しようがない。

 ババババッ!

 30ミリ機関砲が敵機のエンジンを真横から食い破った。


 ドォォン!!

 爆発。

 私はその爆炎を突き破り、次の獲物へと踊りかかる。


『敵機、編隊内部に侵入! 撃てません! 味方に当たります!』

『散開しろ! 距離を取れ!』


 帝國軍の無線がパニックを起こしているのが聞こえる。

 狙い通りだ。

 彼らは密集しすぎている。たった一機の異物を排除するために、味方を巻き込むわけにはいかないのだ。


「そこ、邪魔よ!」


 私は右翼のフラップが遅れる感覚を、強引な魔力制御でねじ伏せながら、狂ったコマのように空を舞った。

 敵のミサイルが私を追尾できず、味方の機体に誤爆する。

 空は混沌の坩堝と化した。


『こちら輸送機「ヘヴィ・ワン」。滑走路より離陸する! 援護を頼む!』


 インカムに、輸送機のパイロットの悲壮な声が響いた。

 リズが乗っている機体だ。


「カイル、輸送機が出るわ! 進路を確保して!」

『分かってる! ……おい、三時方向! 攻撃機が降下してくるぞ!』


 見ると、輸送機の離陸コースを塞ぐように、重武装の攻撃機が機首を向けていた。

 あの位置から撃たれたら、鈍重な輸送機はひとたまりもない。


「させないッ!」


 私は操縦桿を限界まで倒し、急旋回を行った。

 Gで視界が黒く染まり、右腕の血管が悲鳴を上げる。

 構うものか。


 キュイイィィン!!

 アヴェンジャーが魔導炉の咆哮と共に加速する。

 間に合え。間に合え。


 攻撃機がミサイルのハッチを開いた瞬間。

 私はその射線上に、自機を割り込ませた。


『なっ!? 盾になる気か!?』


 カイルの絶叫。

 私は機銃を乱射しながら、そのまま攻撃機へと突撃した。


「どきなさいよォォッ!!」


 恐怖を感じたのか、攻撃機のパイロットが反射的に回避行動を取った。

 その一瞬の隙。

 輸送機が、私たちの真下を轟音と共に通過していく。


『……離陸成功! これより雲層へ退避する!』

『感謝する、アヴェンジャー! ……武運を!』


 輸送機は黒煙を吐きながらも高度を上げ、分厚い雲の中へと姿を消していった。

 助かった。

 安堵で力が抜けそうになる。


 だが、現実はすぐに私を引き戻した。

 輸送機が消えたことで、帝國軍の標的は、ただ一つに残された私へと集中する。


『……さて、お姫様』


 カイルが乾いた声で言った。


『リゼは逃がした。……で、俺たちはどうやってこの包囲網から抜け出すんだ?』


 周囲を見渡せば、数百の敵機が、殺気立った銃口をこちらに向けて旋回を始めていた。

 完全に、袋の鼠だ。


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