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第51話 臨界突破



 私の右腕が、灼熱の鉄柱に変わったような錯覚を覚える。

 骨が軋み、血管が拡張する音まで聞こえそうだ。

 魔導炉の安全装置リミッターが強制解除され、アヴェンジャーが絶叫に近い排気音を上げる。


『……警告アラート。生体接続レベル、危険域に突入。パイロットの生存確率……低下中』


 無機質なシステム音声など、耳に入らない。

 視界(HUD)が赤く染まり、敵機の動きがコマ送りのように遅く見え始めた。


「……見える」


 私は操縦桿を乱暴に叩き込んだ。

 常人ならブラックアウトするほどの加速G。

 だが、今の私の体は、機体の一部と化している。Gさえも推進力に変え、私たちは空を駆け上がった。


『なッ!? 消えただと!?』


 ハウンド1の驚愕の声。

 私は彼の死角――太陽を背にした真上から、垂直に急降下を仕掛けた。


「そこッ!」


 狙いをつける必要さえない。

 私の殺意がそのまま照準となり、機首が吸い付くように敵機を捉える。


『撃てェェッ! カイル!!』

『お、おおおおッ!!』


 Gで意識を飛ばしかけていたカイルが、私の気迫に呼応してトリガーを絞る。

 ガガガガガガッ!!

 限界まで連射速度レートを上げた機関砲が、光の雨となって降り注ぐ。


 キン! キキンッ!

 ニーズヘッグの紫色の障壁が激しくスパークする。

 無敵に見えた盾に、亀裂が走った。


『チィッ! 出力が上がったか! だが、まだ足りねぇよォ!』


 ハウンド1が機体を捻り、反撃のレーザーを乱射する。

 回避行動など取らない。

 私は最小限の挙動で光線をかわし、さらに距離を詰めた。

 ぶつかる寸前。

 空中衝突覚悟の超近接戦闘。


「逃がさない……!」


 右腕が焼き切れそうだ。

 でも、その痛みさえも快感に変わっていく。

 アヴェンジャーが歓喜している。

 ――もっと速く。もっと深く。敵を喰らえと囁いている。


『クソッ、なんだその動きは! 人間じゃねぇ!』


 ハウンド1の声に焦りが混じり始めた。

 予測できない動き。

 私は翼を変形させ、空気抵抗をブレーキにして一瞬で減速し、敵の背後に張り付いた。

 コブラ機動なんて生温い。

 これは、重力を無視した「悪魔の舞踏」だ。


「カイル、ミサイル全弾発射!」

『ロックした! 持ってけド畜生ォォッ!』


 翼下に懸架された全ミサイルが、一斉に解き放たれる。

 至近距離からの飽和攻撃。

 ハウンド1は回避を諦め、障壁の出力を最大に展開した。


 ドゴォォォォォンッ!!

 空中で巨大な爆発が起き、黒煙が視界を覆う。


「……やったか?」

『……いや、まだだ!』


 カイルが叫ぶのと同時に、煙の中から黒い塊が飛び出してきた。

 左翼の一部を吹き飛ばされ、装甲が焼け焦げたニーズヘッグ。

 だが、落ちてはいない。


『……ハハッ、ハハハハハッ! 痛ェなオイ! 最高だぜ歌姫ェ!』


 ハウンド1の狂った笑い声。

 しかし、その機体からは黒いオイルが漏れ、飛行が不安定になっている。


『遊びはここまでだ。……燃料ガスが切れちまった。テメェとのデートはまた今度にしてやるよ』


 負け惜しみと共に、ニーズヘッグは急反転し、雲の中へと逃走を図る。


「待て! 逃げるな!」


 追いかけようとスロットルを押し込んだ瞬間――。


 バヂィッ!!

 右腕から、雷に打たれたような激痛が走った。


「あぐっ……!?」

『エルゼ!? どうした!』


 視界がホワイトアウトする。

 限界だ。

 強制解除の代償が、一気に私を襲った。

 操縦桿を握る力が抜け、アヴェンジャーがガクリと高度を下げる。


「はぁ……はぁ……うっ……」

『おい、しっかりしろ! 意識を保て! 敵は引いた! 帰投するぞ!』


 遠ざかっていく黒い機影。

 仕留め損ねた。

 悔しさと激痛の中で、私は薄れゆく意識を必死に繋ぎ止めた。


 ――勝ったのではない。

 生き延びただけだ。

 帝國の闇は、思ったよりもずっと深い。


『……くそ、腕から煙が出てるぞ。無茶しやがって……』


 カイルの悪態が、遠く聞こえた。

 私の右腕は、黒い鱗の隙間から赤い光を漏らし、燻っていた。


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