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第5話 翼、砕けるとも



 魔導機銃が火を噴いた。

 指先から伝わる激しい反動。空薬莢がコクピット内で乾いた音を立てて跳ね回る。


 私が狙ったのは、カイルの心臓ではない。

 蒼い竜の左翼、その付け根に埋め込まれた『補助推進器ブースター』と生体組織の結合部――わずか数十センチの急所だ。


 着弾。

 火花と共に、蒼い装甲板が砕け散った。


『なっ……!?』


 カイルの驚愕の声。

 推進器が爆発し、黒煙を吹き上げる。支えを失った左翼が、不自然な角度で折れ曲がった。

 揚力を失った竜は、悲鳴を上げながらきりもみ状態で墜落を始める。


『しまっ……制御不能、だ、と……!』


 カイルが必死に機体を立て直そうとするのが見えた。

 だが、片翼をもがれた竜に空を飛ぶ術はない。

 彼の機体は、螺旋を描きながら分厚い雲海へと吸い込まれていく。


 私はスロットルを戻し、旋回してその様を見下ろした。

 照準器のロックオン・アラートが消える。

 レーダー上の光点カイルが、急速に高度を下げていき――やがて、雲の下にある広大な森林地帯へと消えた。


(……あそこなら)


 あの森の樹冠はクッションになる。高度はあるが、熟練の彼なら着地で死ぬことはないはずだ。

 空を奪われ、地を這うことになっても。

 生きてさえいれば、いつかまた。


『……この、売国奴ッ!』


 ノイズ混じりの捨て台詞が、最期に通信機から吐き出された。

 それが、私に向けられた彼の今の全てだった。


「……さよなら、カイル」


 マイクを切ったコクピットの中で、私は誰にも聞こえない声で呟いた。

 視界が滲む。

 涙を拭うつもりはなかった。これは、友を自らの手で撃ち落とした罪の証だからだ。


 その時。

 雲の上空から、重苦しい轟音が降り注いできた。


「こちら第3航空艦隊旗艦ガルガンチュア。特務少尉、ご苦労だったな」


 ヴォルゴフ少佐の傲慢な声。

 見上げれば、雲を割って巨大な空母が姿を現し、その周囲から無数の帝國軍機がハエの大群のように降下してくるのが見えた。

 レジスタンスの本拠地を叩くための本隊だ。


「敵のエースは排除した。あとは我々が掃除クリーニングを行う。貴様は後方へ下がっていろ」

「……了解ラジャー


 私は短く答え、愛機の機首を巡らせた。

 眼下では、位置を特定されたレジスタンスの基地に対し、一方的な爆撃が始まろうとしている。

 火炎と悲鳴が、遠い雲の下で交錯する。


 私はそれを背にして、ただ一人、鉛色の空を飛んだ。

 首輪の冷たさが、改めて肌に食い込む。

 妹を救い出し、この腐った帝國を灰にするその日まで。

 私は魔女として、何度でも友を撃ち、空を汚し続けるだろう。


 エンジンからの排気が、私の嗚咽をかき消すように低く唸っていた。



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