表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/53

第38話 整備士と魔女



 洞の外から、カン、カン、という金属を叩く音が聞こえてくる。

 私はリズが目を覚まさないよう、そっと毛布をかけ直し、音のする方へと足を運んだ。


 外は夜だった。

 磁気嵐の影響でオーロラのように歪んだ月明かりの下、カイルがアヴェンジャーの装甲板を外して整備をしていた。

 その背中は汗ばみ、油汚れで黒くなっている。


「……精が出るわね」


 私が声をかけると、カイルは手を止めずに振り返った。


「おう。目が覚めたか、お姫様」

「その呼び方はやめて。……機体の調子は?」

「最悪だ。フレームはガタガタ、魔導炉の接続部は焼き付いてる。よくこれで空中分解しなかったもんだ」


 カイルは呆れたようにスパナを回した。

 剥き出しになった機体の内部は、焼け焦げたケーブルとひしゃげたパイプの山だった。

 私の無理な「強制蘇生」の代償だ。


「……ごめんなさい。私のせいで」

「謝るなよ。おかげで生き延びたんだ。……それに、こいつはまだ死んじゃいねえ」


 カイルが愛おしそうに、黒い魔導炉の表面を叩いた。

 ドクン。

 微弱だが、確かな脈動が返ってくる。

 この心臓は、まだ私たちと共に戦う気でいる。


「さて、エルゼ。今後のことだが」


 カイルが表情を引き締め、ウエスで手の油を拭った。


「とりあえずの追っ手は撒いたが、帝國軍は執念深いぞ。特にヴォルゴフを殺ったんだ、面子にかけて全軍で捜索に来る」

「そうね。……ここはいつか見つかる」

「ああ。だから、機体が動き次第、俺たちの拠点アジトへ向かう」


 カイルの言葉に、私は息を呑んだ。

 レジスタンスの拠点。それは私にとって、別の意味で針のむしろだ。


「……いいの? 私は『歌う魔女』よ? あなたたちの仲間を何人も殺した」

「知ってるさ」


 カイルは真っ直ぐに私を見た。


「だが、お前はリズを守るために戦ってた。そして今は、帝國に反旗を翻した『復讐者』だ。……俺が口利きしてやる。文句がある奴は、俺とこのアヴェンジャーが黙らせる」


 強引で、乱暴な理屈。

 けれど、今の私にはそれが痛いほど頼もしかった。


「……あなたって、昔からそうね。無鉄砲で、お人好しで」

「褒め言葉として受け取っとくぜ。……ほら、手伝え。お前のその『腕力』が必要なんだ」


 カイルが指差したのは、ひしゃげた主翼のフレームだった。

 人力では到底曲げられない厚さの鋼鉄。


「ジャッキがねえんだ。頼めるか?」

「……人使いが荒いんだから」


 私は苦笑し、右手の包帯を巻き直した。

 黒い鱗に覆われた右腕。

 醜い呪いの証だが、今はこれが、私たちの翼を直すための道具になる。


「せーのっ!」


 グググッ……!

 私が右腕に力を込めると、鋼鉄のフレームが悲鳴を上げて元の形へと戻っていく。

 カイルがすかさず、歪みを修正した箇所に溶接バーナーを当てる。


 バチバチバチッ!

 青白い火花が散り、私たちの顔を照らす。

 オイルの匂いと、鉄の焼ける匂い。

 整備士と魔女。

 奇妙なコンビによる、深夜の修復作業が始まった。


(……悪くない)


 私は額の汗を拭いながら、隣で作業するカイルの横顔を見た。

 帝國に追われ、レジスタンスにも居場所があるか分からない。

 けれど、少なくとも今、この場所には、私とリズが生きていくための「明日」が作られている。


 その夜、森の静寂の中に、アヴェンジャーの復活を告げるハンマーの音が響き続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ