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第33話 復讐者たちの舞踏



 空が燃えていた。

 私たちの周囲360度、すべてが敵の殺意で埋め尽くされている。


「右、ミサイル四発! 左からは火炎ブレス!」

「見えてるぜッ!」


 私の警告と同時に、カイルが操縦桿を乱暴に蹴り倒す。

 アヴェンジャーが空中で身をよじるように回転し、ミサイルの噴煙と灼熱の息吹を紙一重で回避する。

 物理法則を無視した挙動。

 強烈なGが全身を襲い、肋骨が軋む音が聞こえた。


 私の脳内には、周囲五キロ圏内の空間情報が3D映像として投影されている。

 風の流れ、敵機の魔力反応、弾道予測。

 それら全てを私の脳が処理し、最適な回避ルートをカイルの手元へ「直感」として送信する。


「そこだ、落ちろッ!」


 カイルがカウンターの機銃を放つ。

 私が魔力を込めた弾丸は、追撃してきた敵竜の眉間を正確に貫いた。

 頭部を吹き飛ばされた竜が、糸の切れた人形のように墜ちていく。

 これで七機目。

 だが、敵はまだ四十機以上残っている。ハエのように湧いてくる帝國の量産型飛竜たち。


『バケモノめ……! 動きが読めん!』

『囲め! 一斉射撃で潰せ!』


 敵の指揮官の焦った声が傍受できた。

 無理もない。

 今の私たちは、彼らの知る航空力学の範疇にいない。

 ファフニールの爆発的な推力を、ブルーバードの軽快な機動性が制御し、私の生体レーダーが未来を予測する。

 まさに、悪夢の具現化だ。


「……なぁ、エルゼ」


 激しい旋回ドッグファイトの最中、カイルが不意に話しかけてきた。

 呼吸は荒いが、その声には獰猛な愉悦が滲んでいる。


「さっきの放送、聞いたぜ。『今はただの復讐者アヴェンジャー』ってな」

「……趣味が悪かったかしら?」


 私が苦笑混じりに返すと、カイルはニヤリと笑った気配を見せた。


「いいや、最高だ。いつまでも『ニコイチ』や『キメラ』じゃ締まらねえと思ってたところだ。……『アヴェンジャー』。こいつの名前に相応しい」


 ドォンッ!

 同意の印とばかりに、背中の魔導炉が大きく脈打った。

 

「そうね。……行きましょう、アヴェンジャー。私たちの怒りを、あいつらに刻んでやるのよ」


 名前が決まった瞬間、機体との同調率シンクロが一段階深くなった気がした。

 だが、それは同時に、私の脳への負荷が増すことを意味していた。


 ズキリ、とこめかみに鋭い痛みが走る。

 視界の端が赤く滲む。

 魔導炉の出力が上がりすぎている。私の神経回路が、熱量に耐えきれずに悲鳴を上げているのだ。

 指先の感覚がない。自分の体が、徐々に機体という檻に溶けていくような恐怖。


(まだ……まだ保って)


 私は口の中に溜まった鉄の味を飲み込み、意識を旗艦『ガルガンチュア』へと向けた。

 甲板の上。

 強風に煽られながら、小さな人影がこちらを見上げているのが分かる。

 リズ。

 あの子が待っている。


「カイル、正面突破よ! 雑魚に構ってる暇はない!」

「合点承知! 全速フルスロットルだ、振り落とされるなよ!」


 カイルがスロットルを限界まで押し込む。

 アヴェンジャーが咆哮した。

 蒼い翼がきしみを上げ、黒い魔力がジェット噴射のように後方へ噴き出す。


 私たちは、敵の包囲網の最も分厚い一点――正面中央へと突っ込んだ。


『馬鹿な! 自殺行為だ!』

『撃てッ! 弾幕を張れ!』


 前方から、無数の銃弾と火球の壁が迫る。

 回避不能の密度。

 だが、私は逃げなかった。


「――展開シールドッ!!」


 私は叫びと共に、ファフニールの排熱フィールドを機体前面に展開した。

 かつて私とカイルを焼き尽くそうとしたあの熱量を、今度は盾として使う。

 

 ジュワァァァァッ!


 敵の弾幕が、高熱のフィールドに触れて蒸発していく。

 炎のトンネルを突き抜けるアヴェンジャー。

 コクピット内温度が急上昇し、皮膚がチリチリと焼ける感覚。


「う、おおおおおおッ!」


 カイルの絶叫と共に、私たちは炎の壁を突き破った。

 目の前に現れたのは、無防備な旗艦の船体。

 そして、驚愕に顔を歪めるヴォルゴフの姿。


「チェックメイトよ、少佐」


 私は意識で機銃の照準を合わせた。

 もう、言葉はいらない。

 甲板スレスレまで肉薄したアヴェンジャーの影が、死神の鎌のように彼らの上空を覆った。


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