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第31話 死者からの招待状



 高度八千メートル。

 そこは、生身の人間が踏み入ってはならない死の世界だった。

 薄い空気と、凍てつくような冷気。

 だが、今の私たちにとって、ここは唯一の隠れ蓑ステルス・エリアだった。


「……寒いか、エルゼ?」


 通信機越しに、カイルの声が届く。

 気密性の低い急造コクピットには、容赦なく冷気が入り込んでくる。

 だが、私の体感温度はむしろ灼熱だった。


「いいえ。……背中が焼けるように熱い」


 私は、自分の背後に鎮座する魔導炉の脈動を感じていた。

 ファフニールの心臓は、この希薄な大気の中でも衰えるどころか、さらに活発に魔力を吐き出している。

 その奔流が、私の神経コードを通って機体へ流れ込むたび、脳髄が沸騰するような幻痛が走る。


 キィィィィィ……。

 耳鳴りが止まらない。

 視界の端に、ノイズのような赤い光がチカチカと明滅している。

 魔力侵食バックドラフト

 生体CPUとしての負荷が、私の視神経を蝕み始めていた。


「少し高度を下げるぞ。……そろそろ帝國の通信圏内だ」


 カイルが操縦桿を倒す。

 機体が左へ傾き、雲海へと突っ込んでいく。

 翼が風を切り裂く音が、悲鳴のように甲高く響く。

 バランスの悪いキメラ機体での雲中飛行。普通のパイロットなら数秒で空間識失調バーティゴに陥るだろう。

 だが、カイルの操縦は神業だった。

 私の神経が伝える機体の「癖」や「歪み」を瞬時に読み取り、まるで自分の手足のように暴れ馬を御している。


(……すごい)


 敵として戦っていた時は恐ろしかったが、味方になるとこれほど頼もしい男はいない。

 私は痛みを堪え、意識を「外」へと向けた。

 索敵だ。

 ファフニールの広域探知能力レーダーを、私の脳で拡張する。


『――こちら旗艦ガルガンチュア。帝都上空へ到達。パレード隊形へ移行する』

『戦勝記念式典の準備、完了。陛下もご臨席される』


 脳内に、無数の声が流れ込んでくる。

 勝利に酔いしれる兵士たちの声。

 その中に、聞き覚えのある不快な粘着質の声が混じっていた。


『……リズの移送は完了したな? 式典の目玉だ。あの小娘に「帝國への感謝」をスピーチさせる。……姉は無様に死んだが、妹は役に立ってもらわんとな』


 ヴォルゴフ少佐。

 あの男の声を聞いた瞬間、私の脳内で理性の弦が焼き切れそうになった。

 

「……見つけた」

「あ?」

「ヴォルゴフよ。……リズを、見世物にする気だわ」


 私が伝えると、機体の挙動がフッと鋭くなった。

 カイルの殺気が、操縦桿を通じて伝わってくる。


「場所は?」

「ここから南へ三十キロ。帝都中央広場の上空、高度五百」

「ビンゴだ。……派手なパーティをやってる最中ってわけか」


 カイルが獰猛に笑う気配がした。


「通信、割り込めるか?」

「可能よ。……ファフニールの演算能力なら、軍用暗号なんて紙切れ同然だもの」

「よし。……まずは挨拶だ。俺たちが地獄から戻ってきたってことを、骨の髄まで教えてやろうぜ」


 私は意識を集中させた。

 痛みを怒りに変え、魔導炉の出力を上げる。

 私の脳が、帝國軍の全周波数帯域を掌握していく。


 ジャック開始。

 帝都に響き渡るファンファーレを、私たちの「宣戦布告」で塗り潰すために。


「……繋がったわ。いつでも」


 アヴェンジャーが雲を突き破る。

 眼下には、煌びやかな装飾で彩られた帝都と、それに群がる無数の艦影が広がっていた。


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