第24話 蒼と黒の狂想曲
激突の瞬間、空気が破裂したような衝撃波が広がり、周囲の煙を吹き飛ばした。
ガギィィィンッ!!
ファフニールの鋼鉄の爪と、カイルの機体が繰り出したパイルバンカー(近接杭打ち機)が火花を散らして噛み合う。
鍔迫り合い。
重量差は五倍以上あるはずだ。だが、カイルの機体は押し負けていない。
トップスピードの運動エネルギーを一点に集中させ、無理やり拮抗させているのだ。
『どけ、カイル! 死にたいの!?』
『死ぬ? ああ、死ぬ気で来たさ! お前を連れ戻すためならな!』
至近距離。
キャノピー越しに、カイルの顔が見えた。
血走った目、食いしばった歯、そして頬を伝う汗と油。
かつて私に向けられていた優しい笑顔はどこにもない。あるのは、鬼のような形相だ。
「……馬鹿な人」
私はスロットルを叩き込み、魔力放出で彼を弾き飛ばした。
カイルの機体がきりもみ回転しながら後退する。
だが、彼は体勢を崩さない。義足でペダルを蹴り抜き、強引に機首をこちらへ向けてくる。
『連れ戻す? どこへ? 国も、家も、もうどこにもないのに!』
『作るんだよ! お前が壊そうとしているこの世界で、俺たちが生きる場所を!』
カイルが吠え、機銃を乱射しながら突っ込んでくる。
蒼い軌跡が私の周囲を乱舞する。
速い。以前戦った時よりも、さらに数段速くなっている。
装甲を極限まで排除した軽量化と、カイル自身の命を削るような操縦。
あれは、長くは飛べない。数分で機体が空中分解するか、パイロットがG(重力)に潰されるかだ。
(殺すしかないの……?)
私の指がトリガーにかかる。
この距離なら、広範囲殲滅砲で蒸発させられる。
彼を殺せば、私は自由になれる。リズも助かる。
一番簡単な解決策だ。
――ズキン。
不意に、動かないはずの右腕が痛んだ気がした。
いや、痛んだのは胸の奥か。
『撃てよエルゼ! 俺を殺して、その薄汚い勲章をまた増やすのか!?』
「……ッ、うるさい!」
私は叫び、魔弾を放った。
だが、照準が甘い。殺意が乗っていない攻撃など、今の彼には通用しない。
カイルは紙一重でそれを回避し、私の懐へと潜り込んでくる。
二匹の竜が絡み合い、螺旋を描きながら上昇していく。
その直下、戦場では一方的な虐殺が続いていた。
レジスタンスの陣形は崩壊し、帝國艦隊が森を焼き尽くしていく。
勝負はついている。
あとは、私たちがどう終わるかだけだ。
その時。
上空の旗艦『ガルガンチュア』から、無機質な警告アラートが発せられた。
『――特務少尉エルゼ、何をもたついている』
ヴォルゴフ少佐の声だ。
彼の声には、苛立ちと軽蔑が滲んでいた。
『貴様の遊びに付き合っている時間はない。……まとめて消えろ』
え?
思考する間もなかった。
旗艦の主砲――対要塞用魔導カノンが、私たち二人がもつれ合っている空域に向けて、その巨大な砲門を向けたのだ。
「……っ、カイル!」
私は反射的に叫んでいた。
敵味方の識別などない。帝國にとって、反乱分子も、使い捨ての魔女も、まとめて掃除すべきゴミに過ぎない。
閃光。
世界が白一色に染まる。
極太の熱線が、私とカイルを飲み込もうとしていた。




