第22話 最期の翼
西の果て、『終わりの森』。
鬱蒼と茂る巨木たちが作る天然の要塞も、帝國の圧倒的な物量の前には風前の灯火だった。
地下格納庫の空気は、今までになく張り詰めていた。
誰もが分かっている。次が最後だということを。
「……無茶苦茶ですね、その作戦」
俺は作戦図を睨みつけながら、乾いた笑い声を漏らした。
ガロード隊長が提示したのは、作戦と呼ぶにはあまりにも粗雑な特攻計画だった。
「帝國艦隊の中央突破。旗艦『ガルガンチュア』への強行接舷と、魔導炉の破壊。……成功率は限りなくゼロだ」
「だが、ゼロじゃない」
ガロード隊長が静かに言った。
彼の隻眼には、死を覚悟した男特有の凪いだ光が宿っている。
「座して死を待つか、牙を剥いて死ぬか。……俺たちは選ばなきゃならん」
周囲のパイロットたちが無言で頷く。
誰もが家族を殺され、故郷を焼かれた者たちだ。失うものはもう、己の命しかない。
「カイル。お前の『蒼き竜』だが……装甲をすべて外した」
整備士の声に、俺は愛機を見上げた。
ボロボロだった装甲板が取り払われ、骨組みとエンジン、そして最低限の武装だけが残された骸のような姿。
防御を捨て、軽さと速さだけに特化した「死に装束」だ。
「……十分です。一発でも当たれば終わり。分かりやすくていい」
俺は義足でタラップを上り、コクピットへ滑り込んだ。
シートの感触を確かめる。
ここが俺の棺桶だ。
脳裏に浮かぶのは、あの黒い竜の姿。
そして、その中から聞こえたエルゼの悲痛な叫び声。
(……待っていろ、エルゼ)
お前が妹のために魂を売ったのなら。
お前が化け物になって苦しんでいるのなら。
その呪縛を断ち切れるのは、お前と同じ空を飛んできた俺だけだ。
「……救ってやる。たとえ、刺し違えてでも」
俺はエンジンの始動キーを回した。
轟音と共に、蒼い竜が最後の咆哮を上げる。
夜明けと共に、帝國の大艦隊がやってくる。
俺たちの、そして俺と彼女の、最後の戦争が始まる。




