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第156話 底なしの重圧



 ピキッ……パキキッ……。

 コクピットの強化ガラスに走った亀裂が、ゆっくりと、だが確実に広がっていく。

 あと数ミリ。

 それが砕ければ、私たちは瞬時にペシャンコに潰れ、深海の一部になる。


『……終わりだ。静寂に還れ』


 ガブリエルが、さらに体重を乗せてきた。

 装甲が悲鳴を上げ、内壁が内側へ湾曲する。

 カイルはもう動かない。気絶しているのか、それとも……。

 薄れゆく意識の中で、私はアヴェンジャーの胸の奥で輝く、白い光を感じ取った。


(……ミカエル)


 重力制御。

 今までは、この深海の水圧を「押し返す」ために使っていた。

 だから耐えられていた。

 でも、それじゃ勝てない。

 押し合いへし合いをしているだけじゃ、図体のデカいあいつには敵わない。


(……なら、押すんじゃない。引けばいい)


 私は、血の味がする口の中で、ニヤリと笑った。

 防御なんて、もういらない。

 この身を守るための重力を、全部あいつにくれてやる。


「……ねえ、ガブリエル」


 私は、最後の力を振り絞ってスロットルを握りしめた。


「深海の水圧と、私の重力……。

 どっちが『重い』か、試してみましょうか」


『……何?』


「カイル、起きてッ! ミカエルのリミッター解除!

 全出力、前方へ集中フォーカス

 ……『超重力崩壊グラビティ・コラプス』!!」


 ブオォォォォォォォンッ!!!!!


 アヴェンジャーの背中の翼が、白く眩い光を放った。

 防御フィールドが消失する。

 途端に、機体がミシミシとひしゃげ始めた。

 だが、それよりも早く。


 ズズズズズズズッ!!!!!


 私たちを押し潰していたガブリエルの巨体が、逆に「吸い込まれる」ように沈み込んだ。

 違う。

 彼自身の重さが、数百倍に跳ね上がったのだ。


『ぐ、あ……!? 体が……重いッ!?

 装甲が……自重で、潰れる……ッ!』


 ガブリエルが絶叫した。

 深海の水圧に加え、アヴェンジャーから放たれた局所的な超重力。

 二つの巨大な圧力が、ガブリエルという一点に集中した瞬間だった。


 バキバキバキバキッ!!!!!


 頑強だったガブリエルの外殻が、内側へと陥没していく。

 耐圧殻が限界を超えた音だ。

 自分の体重と水圧に耐えきれず、自壊を始めたのだ。


『馬鹿なッ! 私の装甲は、深海1万メートルにも耐えうる設計だぞ!

 なぜ……なぜ、潰れるゥゥゥッ!』


「耐えられるのは『水』だけでしょ?

 ……そこに、星の重さを乗せられた気分はどう?」


 私は、歪んだ視界の中で叫んだ。

 防御を捨てたアヴェンジャーもまた、限界ギリギリだ。

 コクピットのガラスから水が噴き出し、冷たい海水が足元を濡らす。


 だが、勝った。


 ドォォォォォォンッ!!


 ガブリエルが耐えきれず、アヴェンジャーから弾け飛ぶように後退した。

 いや、自分から離れたのだ。

 これ以上密着していれば、自分がブラックホールに飲み込まれると本能で悟ったように。


『はぁ、はぁ……ッ! 貴様、道連れにする気か!』


 距離を取ったガブリエルの姿は無惨だった。

 潜水艦のような美しいボディはベコベコに凹み、青いラインは明滅し、亀裂からは大量の気泡とオイルが漏れ出している。


「……逃がさないわよ」


 私は、浸水し始めたコクピットで、ずぶ濡れになりながら操縦桿を引き寄せた。

 重力アンカー解除。

 海底の岩盤を蹴り、傷ついた鯨へと躍りかかる。


「さあ、食事の時間よ。

 ……中身コアごと、すり潰してあげる」


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