第154話 深海の太陽
ギチチチチ……!!
アヴェンジャーのフレームが歪む音が、断末魔のように響く。
ガブリエルの圧倒的な質量が、私たちを海底の泥の中へと押し込んでいく。
視界は警告色一色。
もう、装甲が耐えられる限界を超えている。
『……やるぞ、エルゼ! ウリエル炉心、臨界点突破!
炉心温度、3000度まで引き上げる!』
カイルが悲痛な声を上げた。
彼は知っているのだ。
閉鎖空間での水素爆発が何を意味するかを。
だが、このまま潰されるよりはマシだ。
「ええ……。派手にやりなさい!」
ドクンッ!!!!!
アヴェンジャーの胸部が、太陽のように白熱した。
周囲の海水が、ジュワッという音と共に瞬時に沸騰する――いや、違う。
泡が消えない。
熱すぎて、水蒸気になる暇もなく、水素と酸素の分子へと引き裂かれているのだ。
『む……? なんだ、この光は?
温かいお湯でも沸かして、最後の一風呂か?』
ガブリエルが嘲るように問いかけてくる。
彼は気づいていない。
自分の腹の下に、大量の爆薬が充満していることに。
「……いいえ。キャンプファイアよ」
私はニヤリと笑い、起爆スイッチ(トリガー)を引いた。
ウリエルのプラズマ火花が、高濃度の水素バブルに触れる。
カッ――――――――!!!!!
音が消えた。
深海の闇が、真っ白な閃光で塗り潰された。
次の瞬間。
ズドオオオオオオオオオオッ!!!!!
海底地震ごときではない。
局所的な核爆発に近い衝撃が、ガブリエルの腹の下で炸裂した。
水素爆発。
さらに、超高圧の水蒸気爆発が連鎖し、膨れ上がったエネルギーの塊が、深海の重圧を無理やり押し広げる。
『ぐ、がああああああッ!?
な、なんだ!? 熱い、熱いぞッ!!』
ガブリエルの絶叫が響く。
山のような巨体が、下からの突き上げによって軽々と吹き飛ばされた。
数千トンの海水ごと、彼自身がカチ上げられたのだ。
ゴゴゴゴゴゴ……!!
衝撃波がアヴェンジャーをも襲う。
だが、爆心地にいた私たちは、ミカエルの重力アンカーを最大にして地面に張り付いていたおかげで、吹き飛ばされずに済んだ。
それでも、機体はボロボロだ。
装甲は焼け焦げ、あちこちからオイルと蒸気が漏れている。
「……ハァ、ハァ……。どう?」
私は、白煙と気泡が渦巻く視界の先を睨んだ。
少し離れた海底に、ガブリエルが横転している。
その腹部は黒く焼け爛れ、美しい青いラインが数本、無惨に断線していた。
『……貴様、貴様ァ……!
水の中で火を使うなど……物理法則を無視するにも程がある!』
ガブリエルが、よろめきながら体勢を立て直す。
その声には、余裕も嘲笑も消え失せ、純粋な怒りと恐怖が混じっていた。
「あら、物理なら合ってるわよ。
水は燃えるの。……やり方次第でね」
私はアヴェンジャーをゆっくりと立ち上がらせた。
ラファエルの風は壊れた。
ウリエルの熱も、今の爆発で大半を使い果たした。
満身創痍。
けれど、私の心臓は高鳴っていた。
深海という絶対零度の世界に、私たちは「熱」を持ち込んだ。
冷たい王者の膝を、焼いてやったのだ。
「さあ、ラウンド2よ、ガブリエル。
……その焦げた腹、もっとよく見せてみなさい」




