第152話 圧壊の音色
ガンッ!!!!!
機体全体が、巨大な鉄槌で殴られたように跳ね上がった。
衝撃は外装だけではない。
コクピットの内部、私の骨の髄まで、不快な振動が突き抜けていく。
『……ぐぅッ! 水密隔壁、破損!
気泡が剥がされたぞ!』
カイルの悲鳴と共に、モニターが真っ赤に染まる。
アヴェンジャーを包んでいた蒸気の膜が、ガブリエルの音波衝撃で霧散したのだ。
剥き出しになった装甲に、1000気圧の海水が直接襲いかかる。
ミシッ、ミシシシッ……!
嫌な音がした。
アヴェンジャーの分厚い装甲が、見えない万力で締め上げられたように内側へ窪んでいく。
重力制御で押し返しているはずなのに、それを上回る「海の重さ」が私たちを圧し潰そうとしている。
「……重いッ!」
私は操縦桿を押し込んだが、機体は泥沼にハマったように動かない。
水が、まるでコンクリートのように硬い。
『無駄だ。
深海において、音は「力」だ』
ガブリエルの厳かな声が、直接頭蓋骨を揺らしてくる。
『私の歌は、周囲の海水分子を振動させ、凝縮させる。
貴様らの周りにあるのは、ただの水ではない。
振動によって拘束された、液体の檻だ』
ズズズズ……ッ。
ガブリエルの巨体が、青い光の帯を引きながら旋回する。
その優雅な動きに合わせて、海水がうねりを上げ、アヴェンジャーを四方八方から押し包む。
『耐えられるかな?
陸の生き物が、この絶対的な孤独と圧力に』
パキッ。
コクピットの強化ガラスに、小さな亀裂が入った。
そこから、極細の水流が針のように噴き出し、シートの横を貫いた。
ヒュッ!
カイルの頬をかすめ、後ろの配電盤に突き刺さる。
バチバチッ!
火花が散った。
『……水鉄砲だと思ってナメてたが、こりゃあウォーターカッターだ!
装甲もガラスも、豆腐みたいに切り裂かれるぞ!』
「……五月蝿い歌ね」
私は、頬に一筋流れるカイルの血を見て、オッドアイを吊り上げた。
音で水を操る?
圧力をかける?
そんな小細工、私の腹の中にいる3匹の怪物が許すはずがない。
「カイル、音には音よ!
ラファエルの『吸気タービン』、最大出力!
水を吸い込んで、全部吐き出しなさい!」
『なッ!? この高圧下でインテークを開けってのか!?
エンジンが破裂するぞ!』
「やるのよ!
あいつの歌をかき消すくらいの、大声で怒鳴り返してやりなさい!」
私はスロットルを限界まで叩き込んだ。
アヴェンジャーの胸部、ラファエルの炉心が大きく口を開ける。
ゴボォォォォォォォォォッ!!!!!
凄まじい吸引音。
周囲の海水ごと、ガブリエルの音波振動を強引に吸い込む。
そして。
ズガガガガガガガッ!!!!!
背中のノズルから、圧縮された超高圧水流が噴射された。
ジェット噴流ではない。
海水を弾丸として撃ち出す、ハイドロ・カノンだ。
その轟音が、深海の静寂を暴力的に引き裂いた。




