第15話 黒き災厄の産声
それは、搭乗というより「融合」に近かった。
「接続、開始」
私の首筋にあるプラグに、太いケーブルがねじ込まれる。
脊髄に直接、冷たい異物が侵入してくる感覚。
全身の神経が総毛立ち、視界がノイズ混じりの赤色に染まった。
「――っ、ぐ……!」
『生体認証、クリア。神経同期率、一二〇%。……異常な数値だねえ。まるで最初から一つだったみたいだ』
マルサス博士の愉悦に満ちた声が脳内に直接響く。
気持ち悪い。
自分の手足の感覚が消え、代わりに鋼鉄の爪と巨大な翼が「自分の体」として認識される。
竜の心拍音が、私の鼓動と完全に重なっていた。
「出撃承認。実戦テストを開始する。ターゲットは、国境付近を徘徊する武装偵察隊だ」
「……了解」
私は思考しただけだ。
けれど、黒い竜『ファフニール』は、私の思考よりも速く反応した。
爆発的な加速。
G(重力)を感じる暇すらない。気づけば私は、格納庫を飛び出し、成層圏へと躍り出ていた。
◇
敵は五機。中型の飛竜部隊だ。
彼らは黒い影が迫っていることに気づいてすらいない。
(……速い)
今までの量産機とは次元が違う。
だが、速すぎる代償として、機体が風を切るたびに、私の皮膚が裂けるような幻痛が襲う。
機体の軋みが、私の骨の軋みとなる。
「あ、ガッ、アァァァッ……!」
痛い。痛い痛い痛い。
この痛みから逃れるには、目の前の敵を殺して、脳内麻薬を出すしかない。
機体が、竜の本能が、そう囁いている。
私は口を開いた。
痛みを魔力に変えるために。
「♪――――ッ!」
歌う。
それは旋律というより、魂の悲鳴だった。
私の歌声がトリガーとなり、背中の巨大タービンが紅蓮の輝きを放つ。
大気中の魔素を根こそぎ喰らい尽くし、ファフニールが「影」と化した。
一閃。
すれ違いざま、私は先頭の敵機を「素手」で引き裂いていた。
鋼鉄の爪が、敵の装甲を紙のように破り、中の肉と骨を撒き散らす。
『な、何だ今の!? レーダーに映らな――』
敵の通信が終わる前に、私は二機目の背後を取っていた。
ゼロ距離からの魔導砲。
ドォォォン!
敵機が内側から破裂し、花火のように散る。
操縦桿はいらない。
私が「右」と思えば右へ。「殺せ」と思えば殺す。
それは全能感に満ちた、甘美な悪夢だった。
(もっと……もっと寄越せ……!)
機体が私の生命力を求めてくる。
指先が炭化していくような感覚。視界の端が黒く欠けていく。
それでも私は歌い続けた。
残る三機が恐怖に駆られて散開するのを、嘲笑うかのように追い詰め、一つ、また一つと空の藻屑に変えていく。
戦闘時間は、わずか三分。
空には、私という名の黒い災厄だけが残されていた。




