第147話 循環する嵐
キィィィィィィィン……!
アヴェンジャーの胸の奥から、耳をつんざくような高周波音が鳴り響いている。
それは、今までのドロドロとした重苦しい心音とは違う、鋭利で精緻なタービンの回転音だった。
『……信じられん。
炉心温度、安定してるだと? あんな無茶苦茶な合体をしたのに』
カイルがモニターを食い入るように見つめ、呆然と呟いた。
コクピット内の気温も、急速に下がり始めている。
あんなに苦しかった灼熱地獄が、嘘のように引いていく。
「……涼しいわ」
私は大きく息を吸い込んだ。
肺に入ってくる空気が美味い。
アヴェンジャーの胸部に取り込まれたラファエルの「大気圧縮炉」が、外部の空気を大量に吸入し、それをウリエルの「熱核炉」へ送り込んでいるのだ。
『なるほどな……。
ラファエルの圧縮空気が、ウリエルの炉心を強制空冷しつつ、その熱で膨張したガスを、ミカエルの重力制御で圧縮して噴射してる。
……こいつは、もはや竜騎兵じゃない』
カイルは顔を上げ、戦慄と興奮が入り混じった表情で言った。
『生体熱核ジェットエンジンだ。
熱を捨てずに、すべて「推力」に変えてやがる』
私は自分の手を見た。
赤く発光していた皮膚の亀裂が、少し落ち着いた色に戻っている。
熱が消えたわけではない。
体の中で、血液のようにスムーズに流れ始めたのだ。
停滞していた熱が巡り、力へと変わる感覚。
「カイル、帰れる?」
『ああ。……今なら、一瞬でな』
カイルがニヤリと笑い、スロットルレバーのロックを解除した。
私は操縦桿を握り直す。
軽い。
羽が生えたように――いや、背中に爆風を背負ったように、機体が浮き上がりたがっている。
「行くわよ」
ズオォォォォォォッ!!!!!
私がペダルを踏み込んだ瞬間、アヴェンジャーの背中の翼から、青白いプラズマの噴流がほとばしった。
予備動作も、助走もいらない。
圧倒的な推力が、鉄塊を垂直に空へと弾き飛ばした。
バリバリバリッ!!
音速の壁を突き破る衝撃波が、眼下のクレーターをさらに広げる。
「速い……ッ!」
景色が線になって後ろへ流れていく。
Gが全身を押し潰そうとするが、ミカエルの重力制御がそれを相殺し、コクピット内は不気味なほど静かだ。
『高度8000、10000……まだ上がるか!
これなら帝國の防空網なんて関係ねえ。
奴らが気づく頃には、俺たちはもうバルデのベッドの上だ』
雲海を一瞬で突き抜け、私たちは再び成層圏近くの蒼穹へと飛び出した。
けれど、今度は窒息することもない。
ラファエルの心臓が、薄い大気すらも掻き集めて燃料に変えてくれる。
「……快適ね」
私は眼下に広がる世界を見下ろした。
空も、熱も、重力も。
すべてが私の一部になって脈打っている。
3つの心臓。
あと一つ。
あと一つ揃えば、この体は完成するのだろうか。
それとも、人の形を保っていられなくなるのだろうか。
答えは分からない。
ただ、満たされたはずの腹の奥底で、最後の空席が「ここだ」と小さく疼いた気がした。




