第146話 嵐の捕食
バキバキバキッ!!
アヴェンジャーの指が、ラファエルの胸部装甲を強引にこじ開けていく。
美しい流線型の装甲が、飴細工のように引きちぎられ、中から白濁した冷却ガスが噴き出した。
『ひっ、やめろ……! 私のコアに触れるな!
それは高純度の「大気圧縮炉」だぞ! 貴様のような汚れた機体に入れたら、拒絶反応で爆発する!』
ラファエルのパイロットが泣き叫ぶ。
命乞いではない。
自分の一部が、下等な存在に穢されることへの生理的な拒絶だ。
だが、今の私にとって、その悲鳴はただのスパイスでしかない。
「……爆発? いいえ、燃焼よ」
私はオッドアイを光らせ、装甲の奥にある「それ」を掴んだ。
グググッ……!
手に伝わる凄まじい振動。
強烈な反発力。
「見つけた」
バシュゥゥゥン!!
私は一気に腕を引き抜いた。
アヴェンジャーの手の中には、直径1メートルほどの、青白く回転する光の球体が収まっていた。
ラファエルの心臓。
周囲の空気を無限に吸い込み、圧縮し続ける「嵐の核」。
『あ……あぁ……私の、空が……』
心臓を奪われたラファエルの機体が、ガクンと力を失い、ただの鉄屑へと戻った。
もう興味はない。
「カイル、準備はいい?」
私はコクピットの中で、震えるカイルの肩を叩いた。
彼は顔面蒼白になりながらも、必死にコンソールにしがみついている。
『……正気じゃねえ。
ミカエルの「魔力」、ウリエルの「熱」、そこへラファエルの「風」だと?
炉心のスペースなんてねえぞ! どこに入れる気だ!』
「食べるのよ。……丸飲みにして」
私はアヴェンジャーの胸部ハッチを展開させた。
そこには、赤く脈打つウリエルの炉心と、青く輝くミカエルの炉心が、互いに火花を散らしながら鎮座している。
その隙間に、無理やり3つ目をねじ込む。
ガキンッ!!!!!
アヴェンジャーが自らの胸に「嵐の核」を叩きつけた。
キュイイイイイイイィン……!!!
耳をつんざくような高周波音が響く。
拒絶反応。
異物が侵入したことで、ミカエルとウリエルが激しく暴れだす。
『警告! 炉心内圧力、臨界突破!
熱量が制御できない! 酸素供給過多! 燃焼速度が異常上昇中!』
カイルが絶叫した。
当然だ。
密閉されたカマドに、超高圧のブロワーで空気を送り込んだようなものだ。
火は消えるどころか、爆発的な勢いで燃え上がる。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……!!
機体が激しく痙攣する。
コクピット内の温度計が、警告音と共に振り切れた。
「……熱い。熱いわ、カイル」
私は喘いだ。
全身の血液が沸騰するような感覚。
けれど、不快ではない。
体の中を、新しい「風」が吹き抜けていく。
淀んでいた熱が、風に乗って全身を駆け巡り、凄まじいエネルギーへと変換されていく快感。
『……待て。数値が……安定し始めた?
違う、熱を「捨てて」いるんじゃない。
ラファエルの圧縮空気が、ウリエルの熱を包み込んで……循環させてやがる!』
シュゴォォォォォォォ……ッ!!!
アヴェンジャーの背中の翼から、青白い炎が噴き出した。
それはただの排熱ではない。
熱膨張を利用した、純粋な推進力。
ミカエルの重力制御で機体を軽くし、ウリエルの熱で空気を膨張させ、ラファエルの風でそれを噴射する。
三位一体。
3つの怪物が、私という器の中で、奇跡的なバランスで手を組んだ瞬間だった。
「……ごちそうさま」
私は、もはや完全に沈黙したラファエルの残骸を見下ろして、深く息を吐いた。
その吐息は、白い蒸気ではなく、蜃気楼のように揺らぐ熱風となっていた。




