第145話 墜落地点
ヒュルルルルル……
大気を引き裂く落下音が、一瞬の静寂に変わった。
そして。
ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!
帝國西部の岩山地帯に、巨大なクレーターが穿たれた。
舞い上がる土砂と粉塵が、キノコ雲となって空へ広がる。
衝撃波が周囲の木々をなぎ倒し、岩盤が砕け散る。
それはまさに、神の鉄槌が落ちたような光景だった。
もうもうと立ち込める砂煙の中。
シューッ、シューッ……。
白い蒸気が漏れる音が響いている。
『……あ、が……。う、嘘だ……』
クレーターの中心。
ひしゃげた純白の装甲が、無惨に地面に埋まり込んでいた。
ラファエルだ。
背中の6枚の翼は全てへし折れ、美しい流線型のボディは泥とオイルにまみれている。
かつての「空の王」の面影は、どこにもない。
その胸の上に、黒と赤の怪物が跨っていた。
アヴェンジャー。
落下の衝撃をラファエルをクッションにすることで相殺し、さらに重力制御で自重を数倍にして踏み潰したのだ。
「……ようこそ、地上へ」
私が外部スピーカーで囁くと、ラファエルのカメラアイが、痙攣するように明滅した。
『私の……翼が……。空が……』
「どう? 泥の味は」
私はアヴェンジャーの右手を伸ばし、ラファエルの頭部を鷲掴みにした。
ジュッ。
高熱の手のひらが、白い顔面を焼き焦がしていく。
「貴方が見下していた場所よ。
空気が濃くて、土臭くて、重力に縛られた不自由な世界。
……でも、今の貴方にはお似合いだわ」
『ふざけるな……! 離せ! 私は、選ばれた存在なんだ!
こんな、こんな汚い場所で……!』
ラファエルが腕を動かそうとするが、関節から火花が散るだけだ。
アヴェンジャーの圧倒的な重量と、ウリエルの炉心が生み出す超高熱が、ラファエルの駆動系を焼き切っている。
『……おい、エルゼ。とどめを刺せ』
コクピットの中で、カイルが苦しげに息をついた。
彼も落下のGで酷いダメージを受けているはずだ。
それでも、その目は冷静にモニターを見据えていた。
『こいつの炉心は「風」だ。
大気を圧縮し、爆発的なエネルギーを生み出す。
……今のうちに喰らわなきゃ、自爆してここ一帯を吹き飛ばしかねんぞ』
「分かってるわ」
私は舌なめずりをした。
目の前には、無防備な獲物。
その胸の奥には、まだ生きている新鮮な心臓がある。
「いただきます、天使様」
ガシュッ!!
アヴェンジャーの右手が、ラファエルの胸部装甲を貫いた。
金属が裂ける嫌な音が響く。
『やめろォォォッ! 来るな! 私の中に入ってくるなァァァッ!!』
ラファエルのパイロットの絶叫が響き渡る。
だが、私の耳には、それは食事の前のファンファーレにしか聞こえなかった。
さあ、3つ目のご馳走だ。




