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145/168

第145話 墜落地点



 ヒュルルルルル……

 大気を引き裂く落下音が、一瞬の静寂に変わった。

 そして。


 ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!


 帝國西部の岩山地帯に、巨大なクレーターが穿たれた。

 舞い上がる土砂と粉塵が、キノコ雲となって空へ広がる。

 衝撃波が周囲の木々をなぎ倒し、岩盤が砕け散る。

 それはまさに、神の鉄槌が落ちたような光景だった。


 もうもうと立ち込める砂煙の中。

 シューッ、シューッ……。

 白い蒸気が漏れる音が響いている。


『……あ、が……。う、嘘だ……』


 クレーターの中心。

 ひしゃげた純白の装甲が、無惨に地面に埋まり込んでいた。

 ラファエルだ。

 背中の6枚の翼は全てへし折れ、美しい流線型のボディは泥とオイルにまみれている。

 かつての「空の王」の面影は、どこにもない。


 その胸の上に、黒と赤の怪物が跨っていた。

 アヴェンジャー。

 落下の衝撃をラファエルをクッションにすることで相殺し、さらに重力制御で自重を数倍にして踏み潰したのだ。


「……ようこそ、地上へ」


 私が外部スピーカーで囁くと、ラファエルのカメラアイが、痙攣するように明滅した。


『私の……翼が……。空が……』


「どう? 泥の味は」


 私はアヴェンジャーの右手を伸ばし、ラファエルの頭部を鷲掴みにした。

 ジュッ。

 高熱の手のひらが、白い顔面を焼き焦がしていく。


「貴方が見下していた場所よ。

 空気が濃くて、土臭くて、重力に縛られた不自由な世界。

 ……でも、今の貴方にはお似合いだわ」


『ふざけるな……! 離せ! 私は、選ばれた存在なんだ!

 こんな、こんな汚い場所で……!』


 ラファエルが腕を動かそうとするが、関節から火花が散るだけだ。

 アヴェンジャーの圧倒的な重量と、ウリエルの炉心が生み出す超高熱が、ラファエルの駆動系を焼き切っている。


『……おい、エルゼ。とどめを刺せ』


 コクピットの中で、カイルが苦しげに息をついた。

 彼も落下のGで酷いダメージを受けているはずだ。

 それでも、その目は冷静にモニターを見据えていた。


『こいつの炉心は「風」だ。

 大気を圧縮し、爆発的なエネルギーを生み出す。

 ……今のうちに喰らわなきゃ、自爆してここ一帯を吹き飛ばしかねんぞ』


「分かってるわ」


 私は舌なめずりをした。

 目の前には、無防備な獲物。

 その胸の奥には、まだ生きている新鮮な心臓コアがある。


「いただきます、天使様」


 ガシュッ!!

 アヴェンジャーの右手が、ラファエルの胸部装甲を貫いた。

 金属が裂ける嫌な音が響く。


『やめろォォォッ! 来るな! 私の中に入ってくるなァァァッ!!』


 ラファエルのパイロットの絶叫が響き渡る。

 だが、私の耳には、それは食事の前のファンファーレにしか聞こえなかった。

 さあ、3つ目のご馳走だ。


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