第144話 堕天の刻
ズガンッ!!!!!
アヴェンジャーの右腕が、ラファエルの展開した風の結界を物理的に叩き割った。
ガラスが砕けるような鋭い音が、真空の空に響き渡る。
『ひっ……!? バカな、私の結界を素手で……!』
ラファエルの優雅な仮面が剥がれ落ちた。
目の前に迫る、溶岩のように赤熱した黒い悪魔。
その圧倒的な質量と熱量が、繊細な風の支配を根底から覆している。
「……捕まえた」
私はオッドアイを見開き、逃げようとするラファエルの純白の足首を、アヴェンジャーの左手で鷲掴みにした。
ジュワァァァァァッ!!
接触した瞬間、ラファエルの美しい装甲が、アヴェンジャーの熱で瞬時に溶解し始めた。
まるで、氷に熱した鉄球を押し当てたようだ。
『あ、あつッ!? 熱いッ! 離せ、汚らわしい!
私の翼が……機体が汚れるだろうがッ!』
ラファエルが狂乱して暴れる。
背中の6枚の翼から突風を放ち、アヴェンジャーを吹き飛ばそうとする。
だが、無駄だ。
掴んだ手は、溶接されたように食い込んでいる。
「汚れる? ……これからもっと汚くなるのよ」
私は操縦桿を逆に倒した。
上昇ではない。
全スラスター、逆噴射。
さらに、背中のミカエルの炉心をフル稼働させ、周囲の重力を数倍に跳ね上げる。
「カイル、重りを最大にして!
……この鳥を、地面までエスコートするわ!」
『了解だ! 重力アンカー、接続!
総重量、500トン相当まで負荷をかけるぞ!』
ズズズンッ……!
空間が歪むほどの超重力。
ラファエルの白い機体が、見えない鎖に引かれたようにガクンと沈んだ。
『な、なんだこの重さは!?
翼が……揚力が効かない!?』
「飛べると思わないで。
今の私たちは、この星で一番『重い』のよ」
私はラファエルを道連れに、成層圏から背面ダイブへと移行した。
高度1万5000メートルからの自由落下。
いや、ただの落下ではない。
重力制御で加速された、隕石のような墜落だ。
ヒュゴォォォォォォォォッ!!
摩擦熱で機体の周囲が赤く燃え上がる。
青い空が、ものすごい勢いで迫ってくる。
『やめろォォォッ! 落ちる! 地面に激突するッ!
離せ! 貴様らも死ぬ気か!?』
ラファエルの悲鳴が風切り音にかき消される。
死ぬ?
まさか。
私たちは「食事」をしに行くのだ。
「……いい眺めでしょう?
貴方が見下していた地上が、どんどん近づいてくるわよ」
私は笑った。
アヴェンジャーの赤熱した顔が、恐怖に引きつるラファエルの顔の目の前にある。
逃げ場はない。
空の王者は今、泥にまみれた獣に首根っこを噛まれ、地獄への特急便に乗せられたのだ。
『助け……誰か、助けろォォォッ!!』
雲海を突き抜ける。
白い世界が一瞬で消え、眼下には荒涼とした岩山が、牙を剥いて待ち構えていた。




