第141話 白銀の噴煙
ドォン、ドォン、ドォンッ!!
見えないハンマーが、アヴェンジャーの周囲を執拗に叩き続ける。
カイルが同乗したとはいえ、状況が好転したわけではない。
むしろ、私たちという「的」が一つになった分、ラファエルの攻撃は正確さを増していた。
『……チッ、高みの見物かよ。
上空1万5000メートル。
アヴェンジャーの推力じゃ、そこまで上がる前に燃料切れか、酸欠でエンジンが止まる』
カイルがモニターを見ながら悪態をつく。
重力制御で飛ぶことはできる。だが、この重装備と冷却液のタンクを背負ったまま、成層圏まで上昇するのは物理的に不可能だ。
「……引きずり下ろすしかないわね」
私は、空を睨んだ。
相変わらず敵影は見えない。
けれど、カイルがいるおかげで、思考がクリアになっていく。
熱に浮かされていた頭が、冷たい水に浸されたように冴え渡る。
「カイル。あの『鎖』、使い道を変えられない?」
『あ? 冷却ユニットのことか?』
「ええ。冷やすだけじゃ能がないわ。
……その冷たい水を、私の熱で一気に沸騰させたら、どうなると思う?」
カイルの手が止まった。
ヘルメットの奥で、彼の目が大きく見開かれるのが分かった。
『……水蒸気爆発。
背中のタンクごと冷却液を気化させて、その爆発的な膨張圧力を推進力に変える気か!?
バカ野郎、そんなことしたら冷却手段を失うぞ!』
「いいのよ。
どうせ、あいつのところまで辿り着けば、体なんて冷え切ってしまうわ」
上空はマイナス50度の世界。
そこへ行くための片道切符。
帰りのことなんて考えていない。
『……ハッ。相変わらずイカれてやがる』
カイルは口元を歪め、キーボードを叩き始めた。
躊躇はない。
彼もまた、私の狂気に感染しているのだ。
『よし、安全弁閉鎖!
冷却液、炉心へ直結! 全弾、沸騰させろ!』
ドクンッ!!!!!
アヴェンジャーの二つの心臓が、冷たい液体を飲み込み、それを瞬時に数千倍の体積を持つ高圧蒸気へと変えた。
シュゴォォォォォォォォッ!!!!!
背中のダクトから、凄まじい勢いで白い噴煙が吹き上がった。
ただの煙ではない。
岩盤をも砕くほどの圧力を持った、白銀のジェット噴射だ。
「行くわよッ!!」
私は操縦桿を引き絞った。
翼の重力制御と、背中の蒸気爆発。
二つの力が、巨大な鉄塊を空へと弾き飛ばす。
ズドォォォォンッ!!
地面が消えた。
凄まじいGが全身にかかる。
私たちは、自らが生み出した人工の雲を引きながら、音速を超えて垂直に空を裂いた。
『なッ……!? 蒸気で加速しただと!?
バカな、地を這う虫風情が!』
通信機から、初めてラファエルの焦った声が聞こえた。
見えた。
青い空の点。
白い翼を広げた、優美な天使の姿が。
「見つけた……!」
私は、右目の蒼と左目の紅を輝かせ、獲物に向けて一直線に突き進んだ。
もう、遠くない。
手が届く距離だ。




