第135話 熱の檻
「……参ったな。こりゃあ、いつものドックには入れられねえぞ」
カイルが頭を抱えて呻いた。
無理もない。アヴェンジャーが立ち尽くしているだけで、足元のアスファルトは泥のように溶け、周囲の気温は真夏のように上昇している。
精密機器だらけの整備ドックに持ち込めば、他の機材まで熱害でダメになってしまうだろう。
「地下の貯水槽を使え」
ヴァルガスが指示を飛ばした。
かつてバルデが鉱山都市だった頃に使われていた、巨大な工業用水のプールだ。
「あそこならコンクリートも分厚い。水冷で強制的に冷やし続けなきゃ、こいつの炉心は落ち着かないだろう」
「……隔離病棟ってわけね」
私は自嘲気味に笑い、アヴェンジャーを再び歩かせた。
ズズッ、ズズッ。
一歩ごとに地面を焦がしながら、私たちは基地の裏手にある地下搬入口へと潜った。
広大な地下空間には、黒く淀んだ水が満々と湛えられていた。
私は躊躇なく、その汚れた水面へと機体を進めた。
ジュワァァァァァァッ……!!
アヴェンジャーの膝が水に触れた瞬間、猛烈な水蒸気が爆発した。
ドボン。
胸まで水に浸かると、地下空洞全体がサウナのような白い蒸気に包まれる。
ボコッ、ボコッ、ボコッ……。
機体の周囲で、冷たいはずの地下水が激しく沸騰し、気泡を上げていた。
『……水温上昇、40度……60度……まだ上がるか。
とんでもない発熱量だ。これじゃあ、風呂の湯加減どころか熱湯地獄だぜ』
無線越しにカイルの呆れた声が届く。
彼は防護服を着込んで、遠くのキャットウォークからこちらを監視していた。
「快適よ。……少し、ぬるいくらい」
私はコクピットの中で息をついた。
外からの冷却が効いているおかげで、ようやく体内の熱暴走のような感覚が落ち着いてきた。
二つの心臓も、水を沸かすことで余剰エネルギーを吐き出し、穏やかなアイドリング音へと変わっていく。
「これからは、ここが私の部屋ね」
私は蒸気で曇ったモニターを見上げた。
薄暗い地下、沸騰する汚水の中。
光の届かないこの場所こそが、太陽を腹に収めた怪物の住処にはお似合いだ。
強くなりすぎた力は、維持するだけで膨大なリソースを食いつぶす。
この熱を冷ますために、私たちは戦いのたびにこうして、冷たい水に身を浸さなければならないのだ。
「……ねえ、カイル。
次の『獲物』の情報はまだ?」
まだ熱が引かない体が、早くも次の燃料を求めて疼いていた。
ただ浸かっているだけでは、この渇きは癒やせない。
私は、湯気の向こうで揺れるカイルの影に、飢えた獣のように問いかけた。




