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第133話 熱の夢



 意識の底で、二色の炎が渦を巻いている。

 右側には、凍てつくような蒼白い光。ミカエルの魔力。

 左側には、焼き尽くすような紅蓮の熱。ウリエルの呪い。


 本来なら混ざり合うはずのない水と油。神聖と冒涜。

 けれど、夢の中の私は、その両方を両手で鷲掴みにし、頭から被って飲み干していた。


『……苦しい?』

『……熱い?』


 アルノとゲイルの声が、左右の耳元で同時に囁く。

 私は彼らの首を、それぞれの色の鎖で縛り上げ、自分の魂の深淵へと引きずり込んだ。


「いいえ。……丁度いいわ」


 私が笑うと、二つの光は私の輪郭の中に溶け込み、巨大な一つ目の怪物となって鎮まった。


『――おい、エルゼ! 息をしてるか!?』


 カイルの焦った声で、重いまぶたを持ち上げた。

 視界が歪んでいる。

 コクピットの計器類が、熱で溶けかけた飴細工のように揺らいで見えた。


「……うるさいわね。せっかく、食休みしていたのに」


 私は身じろぎした。

 パイロットスーツが皮膚に癒着しているような違和感がある。

 汗ではない。

 体の中から滲み出る何かが、スーツの繊維を変質させているのだ。


『バルデに着いたぞ。

 ……だが、お前、その体……』


 モニター越しに、カイルが絶句している。

 私は、ブラックアウトしかけたサブモニターに、自分の顔を映した。


「……あぁ」


 そこに映っていたのは、もはや人間ではなかった。


 右目は、ミカエルの魔力を宿した、結晶のように冷たく澄んだ「蒼眼」。

 左目は、ウリエルの炉心を映した、マグマのように赤く発光する「紅眼」。


 かつての私の瞳の色は、どこにもない。

 そして、首筋から頬にかけて、右側には青白い血管が、左側には赤黒い亀裂が走り、まるで陶磁器に入ったヒビのように肌を侵食していた。


「……派手になったものね」


 私は、自分の顔を指先でなぞった。

 熱い。

 左半分は火傷しそうなほど熱く、右半分は死体のように冷たい。

 二つの心臓が、私の肉体そのものを半分ずつ領土として分割してしまったのだ。


『……医務室へ急ごう。普通の医者じゃ手に負えないかもしれんが』


「必要ないわ」


 私は、オッドアイとなった目で、虚空を睨んだ。

 不思議と、恐怖はなかった。

 むしろ、今のこの歪な姿こそが、あるべき姿のようにしっくりときている。


「これが代償コストでしょう?

 ……神様を二匹も腹に収めたんだもの。

 人の形のままじゃ、器が足りないわ」


 私は歪に笑った。

 その笑顔すら、左右で温度差のある、不気味なものになっている自覚があった。


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