第132話 触れざる者
「撃てッ! 撃ち続けろ! 奴は化け物だ、ここで逃がすなッ!」
指揮官の絶叫と共に、四方八方から砲撃が開始された。
戦車の主砲、機関砲、ミサイル。
嵐のような火力が、広場の中央に立つアヴェンジャーへと殺到する。
だが。
ジュッ、ジュワッ、ボシュッ……!
着弾音はなかった。
アヴェンジャーに触れる直前、全ての砲弾が「溶けて」いた。
機体の周囲に展開された重力場と、そこへ高密度に圧縮された超高温の熱気。
それが目に見えない「断熱圧縮の壁」となり、物理的な質量を持つ弾頭を瞬時に気化させているのだ。
「無駄よ」
私は防御姿勢すら取らず、悠然と歩き出した。
一歩踏み出すたびに、赤い熱波が同心円状に広がる。
「ひ、ひぃッ! 熱いッ! なんだこの熱風は!?」
「装甲が歪む! 退避ッ、退避せよ!」
前線を塞いでいた戦車隊が、慌てて道を空けようとバックする。
だが、キャタピラが熱で変形し、動けなくなった車両から順に、内部の弾薬が誘爆を始めた。
ドォン! ズドォン!
私が手を下すまでもない。
ただ近づくだけで、彼らは勝手に自滅していく。
人間が、太陽に触れられないのと同じ理屈だ。
『……こりゃあ酷え。「歩く災害」とはよく言ったもんだ』
カイルが呆れたように呟く。
モニターの隅では、兵士たちが銃を捨てて逃げ惑う姿が映っていた。
彼らの目には、私がどう映っているのだろう。
反乱軍の英雄? いいえ。
きっと、地獄の釜の蓋が開いて這い出てきた、悪魔そのものに見えているはずだ。
「……興味ないわ」
私は瓦礫と化した市街地を踏みしめ、滑走路の方角へと歩を進めた。
建物が燃え上がり、私の通った跡には、黒く焦げた道だけが残る。
「カイル、帰りましょう。
……少し、眠たくなってきたわ」
満腹感からくる強烈な睡魔。
それとも、急激な身体改造による脳への負荷か。
視界が少し霞む。
けれど、背中の翼はかつてないほど力強く、天を指していた。
『ああ。これ以上の長居は無用だ。
……しかし、手土産にしてはデカすぎるもんを貰っちまったな』
アヴェンジャーが膝を折って跳躍の構えを取る。
瞬間、周囲の雪が一気に水蒸気爆発を起こした。
ズドンッ!!!!!
爆音と共に、黒と赤の流星が夜空へと駆け上がる。
後に残されたのは、中心部だけがぽっかりと溶けてクレーターになった、かつての氷の都の残骸だけだった。
指定災害個体『暴食』。
その危険度ランクは、この夜を境に、さらに一つ上のステージへと引き上げられることになる。
もはや人類の手には負えない、「神殺し」の領域へと。




