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第131話 双核共鳴



 ドクン……ドクン……。

 ドッ、ドッ、ドッ……!


 不整脈のような振動が、シートを通して背骨に伝わってくる。

 二つの心臓。

 ミカエルの「高機動・魔力炉」と、ウリエルの「高出力・熱核炉」。

 性質の異なる二つの怪物が、アヴェンジャーという一つの檻の中で、互いの領域を主張して唸り声を上げている。


『おい、エルゼ! 冷却液クーラントが全っ然足りねえぞ!

 機体表面温度、800度!? これじゃあ装甲が持たねえ、溶け落ちるぞ!』


 カイルの悲鳴が遠くに聞こえる。

 警報音が鳴り止まない。

 けれど、今の私にはその騒音すら、新しい命の産声のように心地よかった。


「……うるさいわね、カイル。

 喧嘩させなければいいんでしょう?」


 私は目を閉じ、感覚ニューロンを深く沈めた。

 イメージする。

 右肺に光の風を。左肺に灼熱の炎を。

 二つの荒ぶる奔流を、私自身の血管パイプを通じて循環させる。

 ミカエルの鋭い魔力で、ウリエルの重い熱を加速させ、

 ウリエルの爆発的な熱量で、ミカエルの繊細な回路を焼き切れないように太く補強する。


「混ざりなさい……!」


 ガキンッ!!

 アヴェンジャーの内部で、何かが噛み合う音がした。

 不協和音が消える。

 代わりに生まれたのは、ジェットエンジンの咆哮のような、あるいは地鳴りのような、低く重厚な唸り声。


 シュゴォォォォォ……ッ!


 機体の全身に走っていた赤熱した亀裂クラックが、一定のリズムで明滅を始める。

 それはまるで、溶岩が呼吸しているかのようだった。


『……安定した? いや、数値が桁外れすぎて計測不能だ。

 だが、エネルギー効率が異常に跳ね上がってる。

 互いの余剰出力を、互いの燃料として回してやがるのか……』


「温かい……」


 私はほうっと息を吐いた。

 吐息が白い霧になるはずの極寒の地で、私の吐く息は熱気となって揺らめいていた。

 寒くない。

 一生、凍えることなんてないだろう。

 私の腹の中には、太陽が二つもあるのだから。


 ズズッ……。

 アヴェンジャーが足を動かす。

 それだけで、足元の凍土が一瞬で蒸発し、泥濘ぬかるみへと変わった。

 歩くだけで大地を変質させる熱量。


「さて……お腹も満たされたことだし」


 私は、湯気を上げる黒と赤の巨体をゆっくりと旋回させた。

 広場の周囲には、いつの間にか無数のライトが光っていた。

 帝國軍の残存部隊だ。

 戦車、歩兵、旧式の竜騎兵。

 ウリエルが敗れたことを信じられないまま、恐怖と義務感に突き動かされて銃口を向けている。


「デザートの時間、というわけでもなさそうね」


 私は彼らを一瞥した。

 食欲は湧かない。

 最高級のステーキを食べた直後に、泥団子を口にする気にはなれなかった。


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