第129話 臨界点
『……化物がァッ!!』
通信機越しに、ゲイルの絶叫が鼓膜を打つ。
ウリエルの内部で、何かが決壊する音がした。
ドクンッ、ドクンッ……!
私の右腕がねじ込まれた胸の奥から、異常な振動が伝わってくる。
「……あら?」
アヴェンジャーの温度計が、測定不能のエラーを吐き出した。
ウリエルの全身の排熱ダクトが、バシュッ! と音を立てて強制開放される。
噴き出したのは、炎ではない。
青白いプラズマの奔流だ。
『貴様に喰われるくらいなら……この街ごと灰になる道を選ぶッ!!
炉心臨界! 自爆シークエンス起動!!』
こいつ、自爆する気だ。
自身の動力炉を暴走させ、核爆発にも似た熱量で、私を道連れに蒸発させるつもりなのだ。
数百メートル四方を更地にする、正真正銘の「神の炎」。
『逃げろエルゼ! こいつはヤバい! アヴェンジャーの装甲でも耐えきれんぞ!』
カイルが悲鳴を上げる。
普通なら、ここでパイルを引き抜き、全速力で離脱するのが正解だ。
だが。
「……逃げる?」
私は、コクピットの中で汗だくになりながら、獰猛に笑った。
目の前には、臨界点を超えて爆発寸前の、極上のエネルギーの塊がある。
それを置いて逃げる?
ありえない。
「もったいないこと、しないでよ」
私は逆に、アクセルを踏み込んだ。
アヴェンジャーが、暴走するウリエルにさらに密着する。
『なっ……貴様、正気か!? 離れろ!』
「離さないわよ。
……せっかく温まったスープを、地面にこぼすなんて許さない」
私は思考回路を、背中の翼へと直結させた。
アヴェンジャー、お願い。
その腹を空かせた胃袋で、全部飲み込みなさい。
「重力結界……全開ッ!!」
ブォォォォォォンッ!!!!!
背中の赤黒い翼が、最大まで展開された。
発生した重力波が、ウリエルと私を包み込むように球状の檻を作る。
外へ逃げようとする熱と爆風を、重力で無理やり内側へ押し戻す。
『熱が……拡散しない!? バカな、爆発を抑え込んでいるのか!?』
「言ったでしょう。
残さずいただくって」
ジュワジュワジュワッ……!
行き場を失った超高熱が、ウリエルの内部で循環し、装甲を内側から溶かしていく。
もはやウリエルは竜騎兵ではない。
圧力鍋だ。
私という蓋によって密閉され、自分自身の熱で煮込まれていく。
『あ、あつ……熱いィィィッ! コクピットが……溶け……!』
ゲイルの断末魔が聞こえる。
自爆すら許されない。
彼に残された道は、ただ一つ。
私の糧になることだけ。
「さあ、殻は剥けたわ」
私はドロドロに溶け崩れたウリエルの胸部に、黒い爪を突き立てた。
掴んだ。
青白く、危険な光を放つ、暴走した心臓を。




