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第125話 凍てつく関門



 視界が真っ白に染まっている。

 北都ガレリアへと続く、標高4000メートルの山岳地帯。

 猛烈な吹雪がアヴェンジャーのセンサーを叩き、外部カメラの映像はノイズ交じりの砂嵐となっていた。


『外気温、マイナス30度。……風速40メートルだ。

 普通の竜騎兵なら、配管が凍りついて墜落してるぞ』


 カイルの声には緊張が混じっている。

 だが、アヴェンジャーのコクピット内は、相変わらず灼熱のサウナ状態だった。

 私の背中で唸るミカエルの炉心と、アヴェンジャーの燃焼炉。

 二つの心臓が発する過剰な熱量が、極寒の冷気をものともせずに機体を温めているのだ。


「快適ね。……暖房が効きすぎているくらいよ」


 私は気怠げにモニターを眺めた。

 白い闇の向こう側に、小さな熱源反応がいくつも灯っている。

 ゆらゆらと揺れる、弱々しい蝋燭の火のような光。


『警告。レーダー感あり。

 ……数は12。機影からして、正規軍じゃないな』


賞金稼ぎバウンティハンターね」


 通信回線を開くまでもない。

 彼らが網を張って待ち構えているのが、手に取るように分かる。

 帝國が私の首に懸けた、天文学的な賞金。

 それに群がるハイエナたちが、この吹雪を利用して奇襲をかけようとしているのだ。


『来たぞ! 雪崩だ!』


 カイルが叫ぶと同時、斜面の上方から人工的な雪崩が発生した。

 爆薬で誘発された数万トンの雪と氷の塊が、白い津波となってアヴェンジャーを飲み込もうと迫る。

 足止めをして、動きが鈍ったところを袋叩きにする算段か。

 教科書通りの、賢い狩り方だ。

 ……相手が「ただの竜騎兵」なら、だが。


「……邪魔よ」


 私は操縦桿に指を這わせ、スロットルを静かに押し込んだ。

 背中の翼が、不気味な赤黒い光を放つ。


 ブゥンッ……!!


 重力波の放出。

 アヴェンジャーの前方に展開された見えない壁が、迫りくる雪崩を真正面から受け止めた。

 いや、受け止めたのではない。

 雪の塊そのものを、重力で左右へと「割った」のだ。


 轟音と共に、雪崩が割れ、アヴェンジャーを避けて谷底へと落ちていく。


『なッ……!? 雪崩が割れただと!?』

『バカな、重竜騎兵にあんな機能はないはずだ!』


 通信機から、慌てふためく男たちの声が漏れ聞こえてくる。

 隠れていた12機の影が、雪の中から飛び出した。

 旧式の竜騎兵を改造した、ツギハギだらけの機体たち。

 ミサイルやガトリング砲を乱射しながら、雪崩を無効化された焦りを誤魔化そうと突っ込んでくる。


「うるさいハエ」


 私はあくびを噛み殺しながら、左翼のスラスターを噴かした。

 回避行動など取らない。

 アヴェンジャーは黒い流星となって、弾幕の真ん中を突っ切った。


 カンカンカンカンッ!!

 小口径の弾丸が、黒銀の装甲に当たって虚しく弾かれる。

 今の私の皮膚は、ミカエルの装甲材とアヴェンジャーの剛性が融合した、複合装甲だ。

 そんな豆鉄砲で、傷がつくはずもない。


「まずは一匹」


 すれ違いざま、先頭の機体の頭部を、アヴェンジャーの左手で無造作に掴んだ。

 そのまま慣性に乗せて、背後の岩盤へと叩きつける。


 グチャッ。

 トマトを握りつぶしたような音がして、コクピットごと敵機がひしゃげた。

 爆発する間もなく、ただの鉄屑へと変わる。


『ひっ……! 速い……! これのどこが重竜騎兵だ!?』

『撃て! 距離を取って撃ち続けろ!』


 散開しようとするハイエナたち。

 だが、遅い。

 私の視界には、彼らの動きがスローモーションのように見えていた。

 機体との同調率が深まりすぎた弊害か、それとも恩恵か。

 彼らのエンジンの熱、パイロットの心拍、恐怖で引きつる筋肉の動きまでが、鮮明な「情報」として脳に流れ込んでくる。


(……不味そう)


 私は直感した。

 この程度の雑魚を喰らっても、私の腹は満たされない。

 魔力の質が低すぎる。

 泥水どころか、錆びた水を飲まされるようなものだ。


「カイル。……食べる価値もないわ」

『ああ。さっさと片付けて、先を急ごうぜ』


 私は右腕のパイルバンカーを構えることなく、ただ「質量」と「速度」だけで、残りの機体へと踊りかかった。

 それは戦闘ではない。

 ただの、雪かきのような作業だった。


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