表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/168

第117話 静寂の王



 遅れてやってきた観客たちが、北の空を埋め尽くしていた。

 帝國軍の機動艦隊だ。

 本来なら、ミカエルが私を処理した後、バルデを制圧するために送り込まれた主力部隊だろう。


『……所属不明機に告ぐ! 直ちに武装を解除し、着陸せよ!

 さもなくば、艦砲射撃を開始する!』


 無線の警告ボイスがうるさい。

 彼らはまだ状況を理解していないのだ。

 地面に突き刺さっている白い残骸が、彼らの「最強の兵器」の成れの果てだということを。


「カイル、聞こえる? 小蝿が騒いでるわ」

『ああ。……どうする? やるか?』


 カイルの声は震えていない。

 以前なら「逃げよう」と言ったはずの戦力差。

 けれど、今の彼は確信しているのだ。

 この黒銀のアヴェンジャーにとって、数の暴力など無意味だと。


「いいえ。タマがもったいないわ」


 私は操縦桿から手を離し、思考だけで翼に命じた。

 背中の「赤黒い光の翼」が、ゆらりと大きく広がる。


 ブォン……。

 空間が歪み、重苦しいプレッシャーが周囲に拡散する。


「……ひざまずけ」


 私は、先頭を飛んでいた駆逐艦に向けて、右手をかざした。

 握り潰すイメージ。

 ただそれだけ。


 ギチチチチチチッ……!!!


 突然、全長100メートルを超える駆逐艦の船体が、見えない巨人の手で握られたようにひしゃげ始めた。

 重力崩壊。

 局所的に発生させた超重力が、装甲も、フレームも、中の乗組員ごと、内側へと圧縮していく。


『な、なんだ!? 重力警報!? 機体が……潰れ……あぐッ、ギャァァァッ!!』


 断末魔は一瞬だった。

 数秒後、空に浮かんでいたはずの軍艦は、バスケットボールほどのサイズの「鉄の塊」へと圧縮され、ポトリと地面に落ちた。


 静寂。

 軍勢が、たった一隻の「見せしめ」によって凍りついた。


「……聞こえたかしら?」


 私は全周波数帯域オープンチャンネルで、静かに囁いた。


「ここは私のテリトリーよ。

 入ってきたいなら、ミンチになる覚悟で来なさい」


 回答は早かった。

 帝國艦隊が、我先にと回頭を始めたのだ。

 攻撃命令など出ていないはずだ。

 ただ、「生物としての本能」が、ここから逃げろと警鐘を鳴らしている。

 黒銀の悪魔。

 重力を操り、触れずに鋼鉄を飴玉のように丸める怪物。


 逃げ惑う背中を見送りながら、私はふと、コクピットの窓に映る自分を見た。

 酷い顔だ。

 血と汗とオイルにまみれて、髪はボサボサ。

 けれど、その双眸だけは、宝石のようにギラギラと輝いている。


『……行っちまったな』

「ええ。賢い子たちで助かったわ」


 私は翼を緩め、ゆっくりとバルデの方向へ機首を向けた。

 夕闇が迫る街。

 そこには、ヴァルガスや仲間たちが待っているはずだ。


 もう、誰も私を「歌姫」とは呼ばないだろう。

 けれど構わない。

 私は、歌よりも素晴らしい力を手に入れたのだから。

 誰にも縛られず、誰にも脅かされない、絶対的な捕食者の座を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ